【3】お申し出者より話し過ぎない。話したいならラポール(心の架け橋)をかけてから
お申し出者がご不満の主旨をあなたに言った直後に、あなたはツーストロークのファーストグリーティングもそこそこに、
「お客様、それはですねえ」と言って、製品や会社側の事情説明をしたり、言い訳を始めていませんか?
これも、クレーム対応を失敗する可能性がたいへん高い運びです。
製品の説明や、会社の事情や、「いつもならキチンとやっているんですが」
なんていう言い訳は、お申し出者にとっては企業の論理の押し付けでしかありません。
しかし、それが企業の論理の押し付けだと言われても、
その説明で納得していただかなくてはならないのが企業の宿命でもあります。
少しでも「それは、企業の論理でしょ!消費者には関係のない話です!!」と言われることなく、
こちら側のどんな言葉も前向きに受け止めていただくためには、前向きに受け止めていただける
環境づくりをすることが必要なのです。
これを「お申し出者とラポール(心の架け橋)をかける」と呼んでいます。
もっと言えば、説明や釈明は、ラポールをかけてからということを忘れないでほしいのです。
ラポールのかけ方にはコツがあります。ファーストグリーティングをしてから、あなたがちょっと質問をしたり、
相槌を打ちながらお申し出者の思いをたっぷりと話していただく時間をしばし作り出します。
その時間の中でお申し出者は、この製品のなにが不満かの次に、必ずどれほどこの製品に期待をしていたか、
どれほどムリをして決断して買ったか、この製品によって誰を喜ばそうとしたかなどの自分の事情を話し出します。
この瞬間、あなたは「面倒くさい話になってきたなあ」と思うかもしれませんが、これは相手が
あなたに「実はこんなことに困っているんですよ」と手を差し伸べてきた瞬間なんです。
相手が少し心を寄せようとし始めた瞬間とも言えますし、
気の利いた対応ができる感性の高い担当者かどうか試されている瞬間ともいえます。
いずれにしても、相手が手を差し伸べているのですから、もちろん、
その手を握るごとくあなたも手を差し伸べてあげてくださいね。
具体的には、その個人の思いや事情について話題を膨らませてほしいのです。
子供のお話が出たのなら、少し子供さんのお話を、お仕事のお話が出たのなら少しお仕事のお話を、
お家のお話が出たのなら少しご家族のお話をというように、お申し出の苦情やご指摘にご理解いただくための
具体的な会話ではありませんが、相手が差し出した個人的な事情には、知らないふりをすることのないようにしましょう。
このようなやりとりをラポールをかけると呼んでいますが、
私などは、相手から手を差し伸べられることを待っているのではなく、
相手が自分の本当の事情を言ってくださるように、
つまり相手からラポールを架けてくださるように積極的に、
個人的な事情を尋ねていくようにしています。
そうすれば、お申し出者が早めに本当のお困りのポイントを差し出してくださる結果になります。
そのようにしてお互いの手が結び合ってから、担当者として説明をしたいことを始めると、
企業の論理も多少前向きに理解しようと努めてくださいますよ。
中村友妃子
【出所・参考文献】
『クレーム対応のプロが教える“最善の話し方”』(青春出版社刊)