●ブランド力のない下請けの悲哀が、同社が飛躍する起爆力に変る
辰野勇氏はスイスアルプスのアイガー北壁に登頂に成功した、日本人で2人目の登山家であり冒険家だ。この辰野氏が自らの手で登山用品をつくろうと1975年に創業した企業がモンベルだ。
設立後間もなく大手スポーツ用品メーカーから商品開発の依頼が舞い込み、登山家のノウハウとユーザー視点から商品を生み出してヒットさせる。だがコストダウンを理由に他社に製造委託されてしまい、同社はこの商品の売上げを失ってしまう。
自社ブランドと独自の販路を持たず、大手企業の下請け的存在だったことが原因だった。この反省と認識が、同社が飛躍するきっかけとなる。
●自社ブランドと自社販路づくり、そして定価販売
設立5年後から、同社では自社商品の開発に本格的に着手し、デュポン社が開発した化学繊維を使い、「軽くて水に強く、保温性が高い寝袋」を誕生させる。この商品がヒットし、同社の飛躍が始まることになる。同社のモノづくりの強みは、「アウトドアのプロとして、自分たちが欲しいもの・つくりたいものをつくる」という基本姿勢だ。
自社ブランドによる商品開発に続き定価販売を行うため、JR大阪駅構内に直営店を出店。以降直営店を増やしながら、製造に加えて小売機能と小売ノウハウも蓄えていく。一般のアウトドアショップでは販売されていない同社商品を取り揃えたことで、アウトドアファンに支持されるようになり、モンベルのブランド価値は次第に向上していく。
競争が激しい大都市では店頭で安売りされる一方、ローカルでは定価に近い価格で販売されるという価格格差がこの業界でも生じていたが、この問題解決にも同社は取組む。全国一律にモンベル商品を3割値下げし、その代わり値引き販売を原則として中止するという決断だ。
同社では冒険家や探検家を応援する「チャレンジ支援」を開始し、2005年に「モンベル・チャレンジ・アワード」を創設。モンベルの会員組織「モンベルクラブ」の年会費1500円の内50円相当のポイントを「モンベル・ファンド」に集め、このポイントで「セイブ・ザ・チルドレン・ジャパン」や日本障がい者カヌー協会、日本自然保護協会などに同社の商品提供を行うといった社会貢献活動も実践している。
同社では他企業のような人材採用活動を行なっていないが、毎年400~500名の入社希望者が自然に集まってくる。モンベルの価値観に共鳴し、同じ価値観を共有して働きたいと考える人々がそれだけ存在する。価値観を共有しアウトドアに詳しい社員たちが集い、自分たちが欲しい商品をつくれば、そこでヒット商品が生れる。
モンベルの仕組みと取組みは、ブランドづくりの理想的な姿だ。
<モンベルの事例に学ぶこと>
自らがユーザーでありアウトドアのプロであることで、自分たちに必要であり欲しいと思う商品をつくれば、そこに需要は必ず存在する。自社のブランド力を高めるには、販売価格を維持できるよう、自社で販路を整備することも欠かせない。
このふたつの取組みは、企業がブランド力を発揮するために欠かせないセオリーだ。