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<事例―9 ミシュランとギネス(B2C)>販促物で終わらず、企業の文化資産に昇華させた取組み・・それがミシュランとギネスだ

酒井光雄 成功事例に学ぶ繁栄企業のブランド戦略

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 ●企業の販促物が、自社の大きな資産に変わる
 
 フランスのタイヤメーカー「ミシュラン」は、日本ではタイヤよりもガイドブックの方が知られているかもしれない。
 
 ミシュランがタイヤ事業を手掛けたきっかけは、1891年に自転車のタイヤ修理にさかのぼる。1898年に同社のキャラクターとして知られる「ビバンダム」が誕生。1900年代は自動車が本格的に普及を始める時期にあり、ミシュランも地図の発行や街路名の看板を配布するといった事業を展開している中で、ミシュランガイドが誕生した。
 
 当初のミシュランガイドは、自動車修理工場の紹介・道路地図・ガソリンスタンドやホテルの情報などを掲載し、無料で配布していた。ミシュランの狙いはクルマで各地を旅行してもらい、タイヤを消耗させた結果、自社のタイヤを購入してもらうことにあった。

 「人はお金を払ったものしか大切にしない」という理由で、1920年にミシュランガイドは有料化される。1930年になるとレストランを星で評価するシステムを導入し、その後、赤い表紙のレッド・ミシュランはレストラン・ホテルを星の数で評価する格付け方法が注目されるようになり、現在に至っている。

 レストランの味と魅力を表す記号として使用される星の数とその意味は、

 <一つ星> 特においしい料理を提供するレストラン。
 <二つ星> 極めて美味な料理であり、遠回りしてでも訪れる価値がある。
 <三ツ星> 卓越した料理を提供する。それを味わうために訪れる事自体が旅の目的になり得る。

 という具合だ。

 日本ではあまり知られていないが、ミシュランガイドには地域の歴史や地理・名所旧跡を解説するグリーン・ミシュランも存在する。

 ミシュランガイドと並んで日本人なら誰もが知る存在として、ギネスブック(現在はギネス世界記録と名称が変更)がある。ギネスブックが誕生したきっかけは、パブや学校、職場、パーティなどで人が集まると、そこで会話が交わされる中で生まれる些細な疑問から始まった。

 1951年ギネス醸造所の経営者だったヒュー・ビーヴァー卿が友人とアイルランドのウェックスフォード州で狩猟を楽しんでいた時、「ヨーロッパで最も速く飛ぶ狩猟鳥はヨーロッパムナグロかライチョウか?」という議論になり、蔵書や資料を調べてみたものの、その答えは見つからなかった。

 こうした疑問はどこでも起こっていると考えたビーヴァー卿は、「これが世界最高」だというデータを集めた書籍があれば、それを欲しいと思う人が必ずいるはずだと考えた。

 そこでロンドンで調査を行っていたノリス・マクワーターとロス・マクワーターという兄弟の力を借りて編集作業に取りかかり、 1955年8月27 日に「ギネスブック」の第一版が完成する。この書籍は同年のクリスマスに英国でベストセラーとなった。これがギネスブック誕生の経緯だ。

 ギネスブックも当初はビールを飲みながら雑談する際の話題にできる雑学書であり、トリビア集として機能していたが、今では同社のビール以上に知られる存在に成長している。ギネスビールを飲まない人も、ギネスの名前を知らない人はいなくなった。

 ●販促物では捨てられる
 
 ミシュランガイドはタイヤを消耗させ自社のタイヤを購入してもらうために考えだされ、ギネスブックはパブなどビール談義の際に必要な雑学集として誕生した。そのどちらも企業の知名度と認知度を高めるだけに留まらず、両社の経営資源に成長している。
 
 企業は商品を拡販するために膨大な販促物を制作しているが、その多くは顧客から大事にされることなくゴミ箱に捨てられてしまう。しかしこの2社の取組みは、長い年月を掛けて魅力的なコンテンツに仕立て、継続していったことで、企業のブランド価値を向上させる資源に成長させた。
 
 <ミシュランガイドとギネスブックの事例に学ぶこと>
 両者の取組みが成功した最大の要因。それは「有料」でも欲しくなるように、コンテンツの内容を磨き上げたことにある。販促物ではなく、カルチャーブックや書籍に昇華させることができるかどうか。ここにブランド化に向けた取り組みの秘訣がある。
 
 

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