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Vol.5 なぜ今、ブランドは店舗内に“カフェ”をつくるのか? ─「時間を使ってもらう」ブランドへの進化(UNIQLO後編)

《ニューヨーク発》ビジネスリーダーの先読み: 最新トレンドと戦略拠点

前編では、ユニクロ五番街店のカフェ戦略が、従来の「価格以外の差別化要素が乏しい」という課題への戦略的回答であり、Z世代の「ブランド試着」ニーズに応える取り組みであることを分析した。

“五番街”という戦略立地におけるブランド再定義
ニューヨーク五番街は、ラグジュアリーの物語と観光地としての賑わいが交差する国際的ショーウィンドゥ。そこに位置するユニクロは単なる量販店ではなく、「グローバルスタンダードのベーシックブランド」としてのポジション確立を狙っている。この地でカフェを併設するのは、「価格の安さ」を全面に出すのではなく、「価値ある存在感」を表現して勝負する姿勢の現れだ。

コーヒーという米国のライフスタイル要素を通じて、ユニクロは「生活文化ブランド」へと進化する意志を表明している。これまでの「LifeWear」というコンセプトが、服だけでなく時間と空間を共にする関係性へと拡張されようとしている。

Photo: Niena Etsuko Hino

Louis Vuittonとの戦略的対比から見える独自性
前々回紹介したLouis Vuittonのカフェと比較すると、ユニクロの戦略的独自性が浮き彫りになる。LVが「選別された特別な体験」を演出するのに対し、ユニクロは「開かれた日常的な体験」を提供する。

LVのカフェは「作り込まれた贅沢な時間」を過ごすことでブランド価値を五感で体感させる「特権的空間」だが、ユニクロのカフェは特別な個性や世界観の演出はせず、利用者それぞれの「能動的な滞在」を促し、買い物の合間の休憩から再度売場へ戻る導線を生み出す。家族連れや旅行者など幅広い層を想定し、「人の生活の中に存在するユニクロ」を体現する場として機能している。

Photo: Niena Etsuko Hino

「可処分時間」の獲得戦略としての本質
ユニクロのカフェ戦略の本質は、顧客の可処分時間をいかに獲得するかにある。価格競争でも製品の質でもすでに成熟しているからこそ、次に狙うのは「時間を使ってもらうブランド」への進化だ。

現代の消費者は「お金」だけでなく「時間」の使い道にもこだわりがある。「このブランドの空間で過ごす時間が心地いい」「購入以外にも行く理由がある」と感じさせることが、ブランドの選ばれ方に直結する。特にユニクロのような日常に基づいたブランドにおいては、他ブランドとの差別化が難しく、その結果、価格競争に陥りやすい。

そこに「時間を過ごす場所」「ちょっとした自分の居場所」としての価値を持たせることで、足を運ばせるきっかけを作り、その頻度を高くし、さらには滞在時間の延長に導く、そうすることで購入確率の向上、ブランドとの接点増加による記憶定着、SNSでの拡散誘発など、新たなブランド資産の積み上げが可能になる。

Movie: Niena Etsuko Hino
※音が出ます。ご注意ください。

選ばれる理由は“モノ”から“時間”へ
ユニクロの事例が示すのは、従来の「物を買うために立ち寄る」場所から、「時間を過ごすことそのものが目的になる」場所への進化だ。これは単なる店舗戦略の話ではなく、ブランドと顧客の関係性そのものを再定義する取り組みでもある。

商品を「売ること」だけでなく、「顧客との関わりをいかに深めるか」が、いま多くの企業にとって共通の課題になっている。商品やサービスの違いが見えにくくなっている今、どれだけ強いつながりを築けるかが、企業の強みになっていく。

ユニクロのカフェは、「生活に自然に入り込み、違和感なく選ばれる存在」として、時間も空間も共にする関係性の構築を目指している。五番街という象徴的な立地での挑戦だが、この「時間を使ってもらう」という発想は、他の国・地域でも応用可能だ。そして最も重要なのは立地の特殊性でもラグジュアリーさでもなく、顧客との接点をどう設計し構築するかという戦略の本質にある。

Niena’s Cut
ユニクロのカフェ戦略は、ブランドの「日常性」を武器に変える巧妙な取り組みだ。ラグジュアリーブランドが「非日常」で差別化を図る中、「日常に根ざしながらも、そこに新たな価値を見出してもらう」アプローチは、多くの企業にとって参考になる視点だろう。

重要なのは、カフェという手法そのものではなく、「自社ブランドの空間における、顧客が無理なく過ごす時間を設計する」という発想だ。単に商品を売る場所ではなく、顧客との関係性を育てる場へ。その変化を支える仕組みをどう構築するかなのだ。

ユニクロの挑戦は、まさにその実践例として、今後の展開が注目される。この戦略は、五番街店だけでなく、今後の国内外店舗展開にも重要な示唆を与える布石として位置づけられるだろう。

Vol.4 なぜ今、ブランドは店舗内に“カフェ”をつくるのか? ─「日常性」を武器に変えるユニクロの戦略 (UNIQLO 前編)前のページ

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