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国のかたち、組織のかたち(72) 日本銀行と財政政策⑥(赤字国債)

指導者たる者かくあるべし

 GDPの2倍を超える膨大な国債残高

 財務省によれば、国の借金である国債残高は、今年度末には1,129兆円に上ると見込まれている。これはGDPの2倍を超えており(249%)、主要先進国の中で最も高い水準にある。

 戦後の日本は財政規律に比較的厳しく、1966年に初めて国債を発行した際も、用途は道路建設など将来の国民の資産として残る社会インフラ整備に限られていた。

 しかし、1975年には、政府は第一次オイルショック後の景気後退に対処するための減税を行い、歳入不足分を赤字国債で補った。しかし、これは緊急避難的措置と認識され、80年度までに赤字国債からの脱却を目指す「財政健全化目標」を掲げる良識はあった。

 財政健全化への努力

 健全化目標は達成されず、問題は先送りされ、借金返済のために借金を重ねる悪循環を断ちきれなかった。歴代内閣は、行財政改革を掲げて歳出のムダを切る努力を重ねてきた。三公社(国鉄、電電公社、専売公社)の民営化もその一環だった。

 前回も書いたが、政治というものは、選挙という審判を有利に進めるため、積極財政を組みたがる。有権者の反発を買う増税はタブー視される傾向が強い。

 最終的に赤字体質を払拭する手立ては増税しかなくなる。所得税、法人税など直接税の増税は反発が強い。そこで導入されたのが、竹下登内閣が創設した3%の消費税だった。こうして90年度の当初予算で赤字国債からの脱却を果たす。だが政治の大盤振る舞い体質は変わらないから、将来の財源不足分は、消費税率の引き上げで対処することが含み置かれたのである。現実に、税率はやがて5%、8%、10%へと引き上げられて現在に至る。

 内閣の命と引き換えに導入された3%消費税だったが、効果は長続きしない。やがて、バブル景気がはじけて税収は著しく落ち込み、94年度から再び歳入不足分を赤字国債で補う旧弊に戻ってしまう。

 96年に政権についた橋本龍太郎内閣は翌年、財政構造改革法によって、財政健全化目標を定め、社会保障関係費や公共投資関係費の削減を目指したが、債務保証問題が火を噴き、北海道拓殖銀行、山一證券が倒産に至る金融危機に見舞われる。政府は金融機関救済に追われて、同法は98年に執行停止となり、財政健全化計画は雲散霧消してしまった。

 国債の大半を日銀が“引き受け“

 こうした渦中で、中央銀行としての日銀の政府からの独立性を担保する新日銀法が施行される(98年)のだ。財政政策は政府が国会の承認を受けて運営する。一方、物価、金利などの金融政策は独立機関としての日銀が所掌する。欧米並みの役割分担が法定化された。これでこれまで書いてきた戦後の金融政策の流れが一つにつながる。

 ところがである。今回の話題である膨大な国債の大半は、日銀が市場から買い入れて、日銀の金庫に積み上がっている。政府が2013年度から2022年度までの10年間に新規発行した国債480兆円のうち、95%に当たる456兆円分を日銀が保有している異常事態となっている。

 財政法第五条では、日銀は国債の引き受け(財政ファイナンス)を禁じているが、日銀では、市場に出回った債権を市場から買い入れたから引き受けには当たらないと説明している。政府の赤字補填分を事実上、日銀が引き受けていることになり、グレーゾーンの対応だ。

 なぜこんなカラクリになっているのか。

 2012年に発足した第二次安倍晋三内閣が打ち出したアベノミクスと、それに歩調を合わせた黒田東彦(くろだ・はるひこ)総裁時代の日銀が推し進めた「異次元緩和」政策の負の遺産なのだ。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考資料
 「異次元緩和の罪と罰」山本謙三著 講談社現代新書
 「ドキュメント 異次元緩和」西尾智彦著 岩波新書
 「日本の経済政策 失われた30年をいかに克服するか」小林圭一郎著 中公新書)

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