■映画館ではじまった、新しい“立体”音響
映画館は進化を続けています。古くは「無声」にはじまり、モノクロトーキー、カラー、サラウンド音声、横長映像、立体映像(3D)と、新技術を取り込んで、新たな楽しみを提供してきました。
そして、最新のトピックは、音の完全なる「立体化」。ドルビー社が開発した、「ATMOS」(アトモス)というシステムに沿って制作された作品を、ATMOS対応映画館で鑑賞すると、テーマパークのアトラクションのように、鮮明な立体音響が楽しめるようになりました。
技術的な詳細は割愛しますが、従来の映画館との最大の違いは、天井に設けられたスピーカー群。天井から音が降り注ぐ感覚も楽しめるようになりました。
写真は、2013年11月22日にリニューアルオープンされた、日本初となるアトモス対応スクリーン「TOHOシネマズららぽーと船橋」(4番スクリーン)の内部の様子です。
天井部の緑色は、スピーカーを示しています。側壁や後方壁面にも、多数のスピーカーが配置されているのが判ります。アトモスでは、側面と天井の多数のスピーカーを組み合わせることで、自由かつ鮮明な音の移動を表現することができるようになりました。例えば、空から雨が降って来るような分かり易い効果から、深い森に包み込まれる空気感まで、映像の世界にマッチした「雰囲気」を体感できるのです。
現在、アトモス対応の映画館は、首都圏に4スクリーン、関西に2スクリーン、名古屋、下関と、合計8スクリーンしかありませんが、今後、全国に広がりそうな勢いです。
以下のサイトで、お近くのアトモス対応映画館を見つけてみてください。同じタイトルの映画も、また違った感覚で楽しめます!
●ドルビー 映画館検索 (「フィルターをかける」で、「Dolby Atmos」を選択してください。)
最近の話題作、ディズニーの「アナと雪の女王」や「ゼロ・グラビティー」など、映画作品も、新作から続々とアトモスに対応しています。対応作品は、以下のサイトで確認できます。
■家庭にも「アトモス」がやって来る!
そして、2014年秋には、その話題の「アトモス」が家庭でも楽しめるようになります。アトモスに対応したホームシアター向けのAVアンプが、オンキヨー、デノン、パイオニア、ヤマハの各社から発売されるのです。ほか、ブルーレイプレーヤーやスピーカーなどの機材も必要ですが、これらは既存のものが使えます。肝心のソフトは、アトモス対応版を待つ必要があり、対応タイトルは間もなく正式に発表される見込みです。
筆者は取材を通じて、家庭用アトモスも体験しましたが、映画館と遜色のない立体音響が楽しめました。狭い視聴室でも、壁や天井が取り払われたかのように、映像の世界に広がる空間が味わえるのは、非日常的な驚きです。
(技術面では、大きい映画館、小さい映画館、もっと小さなホームシアターなど、視聴環境に応じて音響を最適化できるのがアトモス最大のメリットですが、複雑になるので割愛します。)
■さいごに ~ 「超臨場」時代がやってくる!
映像の4K/8Kといった高精細化や、音のさらなる立体感向上は、単に映像や音を楽しむという次元から、仮想現実を体感するレベルに近づいています。
テーマパークでは、温度、風、匂いなどの要素も加えたアトラクションも登場しています。
例えば、富士急ハイランドの「富士飛行社」 は、視野を覆う巨大で高精細なスクリーン映像に加え、風、ミスト、匂いによる演出、映像に合わせて動くシートなど、疑似体験ともいえるリアリティーで、注目を集めています。
やがては、家に居ながら、世界中のあらゆる場所を体感できる「超臨場」の時代がやって来そうです。便利そうな反面、出掛ける楽しみが減るのは寂しいかもしれませんが・・・
鴻池賢三