昨年来のコロナ禍で、おうち時間を少しでも楽しくすごしたいというニーズが高まり、今年(2021年)上半期は、キッチン家電にも注目商品が見られました。
例えば、パナソニックの「ビストロNT-D700」というオーブントースターは3万円近い高価格ながら、いっときは品薄状況が続きました。冷凍したパン、厚切りのパンを美味しく焼きたいという需要に応えた格好です。
また、J-FUNの「アビエン マジックグリル」は2万円ほどするホットプレートなんですが、本体がごくごく薄いスタイリッシュなデザインが好感を呼び、ネット通販でしか販売されていないのに人気が高まって、2カ月待ちという状態にもなりました。
どちらもいわば「一芸特化型のキッチン家電」というふうに表現できるかもしれませんね。いわゆる白物家電というと、必要に迫られて致し方なく買うという感じで、どうも購入に際して胸がときめく場面が少ない時代が長く続きましたけれど、この10年間に限ってみると、実は今年上半期だけの話でなくて、「これ、欲しい」と突き動かされる商品が結構出てきています。
いくつかの例を挙げましょうか。まず、2010年、福島県の中堅メーカーである山本電気が「マルチスピードミキサー マスターカット」を発売。これが家電好きや料理好きの心を大いに刺激して、ロングセラー商品に育っています。また、2013年にはフィリップスの「ノンフライヤー」、そしてドールの「ヨナナスメーカー」が国内に登場。この後もバルミューダの「ザ・トースター」や、愛知ドビーの「バーミキュラ ライスポット」がヒット…。こう見ていくと、毎年のように「一芸特化型のキッチン家電」って出ているんですね。
そんな「一芸特化型のキッチン家電」に求められる要素は…。私が思うに、まずは商品が掲げる意外性でしょう。これが驚きにつながり、購入意欲を喚起するから。まあこれは当然の話ですね。あとひとつ、大事なことがあると感じています。それは、継続して使えるかどうか。一芸特化型って、ややもすればちょっと使ううちに飽きてくるんですよね。それに加え、いくら意外性が高くても日々のメンテナンスに手間がかかったりすると、日常使いしなくなります。
で、今年上半期に注目を浴びた「一芸特化型のキッチン家電」をここでさらに一点、お伝えしたいと思います。それは、ホテルショコラの「ベルベタイザー」です。値段は1万円。
何に使える家電なのか。ホットチョコレートを作る、ただそれだけの機種です。「なんだ、すぐに飽きそうだな」と思われるかもしれませんね。私も最初はそう感じていました。確かめたくなって、数カ月前に購入して使い続けてみたのですが…。いや、結構うまいつくりになっている。
操作はスイッチひとつですし、別売りのチョコフレークと牛乳を本体に入れれば、あとは出来上がりを待つだけです。所要時間は2分半くらい。その間、ユーザーは何も手を加えなくてよい。
この「ベルベタイザー」は英国発の商品であり、日本に上陸する前までに、すでに20万台を販売したという実績を有しています。ただ、きめ細かな仕様に持ち味のある日本発のキッチン家電に比べて、実使用感はどうなんだろうかという不安はありました。
実際に使ってみてわかったのですが、この一台、後片付けがとても楽にできるのが美点でした。本体内の構造はいたってシンプルで、そのために掃除するのが負担にならない。よく考えられていると思います。「一芸特化型のキッチン家電」として、踏まえるべきところは踏まえている感じ。
ホットチョコレートの出来上がりには不満なしです。とても繊細な舌ざわりを体感できました。これはチョコレート好きならば、選択肢に入れて良い商品と言えるでしょう。別売りのチョコフレークは個包装タイプで250円ほどしますから、その出費は覚悟のうえで、となりますし、一度に1人分(カップ1杯分)しかつくれないことを踏まえる必要はありますが…。でも、既存の鍋でホットチョコをつくろうと思うと、チョコを溶かすのも一苦労ですし、時間もかかります。その面倒さを解消してくれる商品であるのは間違いない。
メガヒットを呼ぶ性格の家電では、確かにありませんね。とはいえ、この時代、特定の消費者層に着実に響く商品づくりというのは、かなり重要になってきていると私は思います。消費環境が成熟している今、「それまで欲しいと考えていなかったのに、思わず手を伸ばしたくなる」と感じさせる商品って、やっぱり強いのではないかと考えるからです。