アルファポリスは実質的な創業が2007年の出版社であるが、2019年3月期の売上高は約50億円、営業利益は14億円に達する。出版業界は古い業界であり、この20年ほどは活字離れによって厳しい時代を過ごしてきた。その中にあって、同社はネットの特性を巧みに利用して、出版の新しい成功モデルを作り上げた会社と言えるのである。
まさに驚異的というしかない。
書籍を出版する時の最大のリスクは、今も昔も出版してみないと、当たるか当たらないかわからないことである。それゆえ、ベテランの編集者の市場を読む目が重要な財産となる。しかし、同社ではネット上のコンテンツを集め、その良否を読者に判定してもらい、人気のある作品を書籍化するという手法をとっている。
この方式では、書籍化前にある程度人気の度合いを測ることができ、外れる確率が極めて低くなる。また、コンテンツの投稿者にも人気の度合いによって報酬が支払われ、人気投票に参加する読者にも抽選で賞金が贈呈される仕組みを構築している。
作品の内容はいわゆるライトノベルと呼ばれる作品である。これは表紙や挿絵にアニメ調のイラストが用いられており、また一般の小説より軽妙な文体でストーリーが描かれている小説の総称である。当初は、このライトノベルからスタートしているが、ライトノベルはコミックとの親和性が高いことから、ライトノベルの人気作品を漫画化することで、漫画本にも進出している。
一般的に、コミックは週刊誌、月刊誌の連載から人気作品が生まれるパターンであるが、同社はライトノベルの漫画化という新しい方式で市場を開拓してきた。漫画の取り扱いは2012年からであるが、すでに売上構成比はライトノベルの42%を上回って49%を占める。
同社の成長を支えているもう一つの要因は、電子書籍市場の拡大である。紙の出版市場は2018年まで14年連続で減少しているが、電子書籍はこの10年間、年率21%で拡大してきた。もともと同社はネット上のコンテンツを書籍化することからスタートしており、同社コンテンツとネットの相性が極めてよく、電子書籍のウエイトは50%ほどと出版社の中ではダントツに高いことも同社の高成長の背景である。
有賀の眼
しばしば、長いこと世の中では活字離れと言われてきたが、それはあくまで紙の書籍離れであって、実は電子書籍や電子コミックは右肩上がりの成長を遂げているのである。また、ネット上では文字を読むことも多いのである。その意味で言えば、同社はネットの特性、市場の特性をしっかりと押さえて、出版業の新しいモデルを作り上げた会社と言えるのではないだろうか。
出版業界はこの20年ほどは構造不況業種と見られてきた。しかし、この1年で状況は様変わりしている。これは電子化によって、出版業の収益性が急速に高まってきたためである。図は出版大手3社(集英社、講談社、小学館)の売上及び純利益の合計値の推移を示したものである。
図の期間に売上高は2017年まで継続的に減少し、利益はリーマンショックで一旦落ち込むが2017年まではほぼ横ばい圏であった。もっとも、利益の多くは副業の不動産業で稼いでいたのが実態である。しかし、この1年でその状況が様変わりとなっている。一気に増収率が高まり、利益水準は過去20年間を大きく上回ってきた。これは決して一時的現象ではなく、当面右肩上がりとなる可能性が高い。
この背景としてあるのが、電子書籍市場の拡大によって、コミックに強い出版社の売上が増収に転じたことが第1点。しかも、電子書籍は紙の書籍と異なって、紙代、印刷代、輸送費、返品コストがないため、極めて収益性の高い商品である。これまでは紙+電子でトータル売上がマイナスであったが、合計値がプラスになり始めて一気に収益性が高まってきたのである。
つまり、不況産業と思われていた出版業がいつの間にか成長産業に変わり、その中でネットの特性を巧みに利用して、新しい出版の形を創出した同社が成長企業となったのは必然と言えよう。ただし、その力量を試されるのはむしろこれからであろう。同社のモデルは比較的模倣がしやすいことで、水面下では第2、第3の同社が現われ、また既存の大手出版社も同社と同様の方式を行い始めている。今後は、いかにオリジナリティに磨きをかけられるかが勝負となろう。