リーダーはつねに一人
織田信長ほどその人物評価において毀誉褒貶(きよほうへん)の激しくわかれるリーダーはいない。戦国の乱世を終わらせるべく天下統一の一歩手前まで導いたのは、そのカリスマ的指導力があったからに他ならない。
しかし、自分の権力を脅かすナンバー2の存在は決して許さず、手柄のあった部下を時に憎み、激しい憎悪で粛清した。多くの場合は一族郎党まで抹殺し尽くした。
日本型組織の基層構図である「タテ社会」について考察した社会人類学者の中根千枝は、タテ型の集団においては、「リーダーの交替は、不可能ではないが、非常に困難で、リーダーはつねに一人に限られる」と、その弱点を指摘している。
カリスマ型指導者の末路
ドイツの社会学者、マックス・ウェーバーによると、信長型の「カリスマ指導者」は、合議に基づく官僚的支配や慣習と対立、あるいはそれにとらわれず、支配下にある「信奉者」によって評価され権力を行使する。カリスマリーダーの積極的側面である。
しかし、長く成功をおさめず、「彼の指導が被支配者に幸福をもたらさないならば、権威は失墜する」という。中国なら「徳がない」として、退位を余儀なくされるが、日本型社会では、そうならない。
中根が言うように、あらかじめスペアの用意がなく指導者の交替は困難である。ところが、どんなに結束が固い集団でも、突然のリーダー(大親分)の死は組織にとって致命的となり崩壊を招く。あるいはお家騒動が起きる。
まさに、信長が本能寺に倒れたあとのお家騒動は、山崎の合戦から関ヶ原の激突を経て大坂の陣まで続くのである。
小隊長の死への対処の差
ナンバー2の不在。わかりやすい例を上げると、こんなことだ。旧日本陸軍は精強で知られたが、実践単位の小隊のリーダーが敵弾に倒れた場合にその弱点をさらした。小隊長の戦死によって、結束を誇った戦闘集団は急速に士気を失い瓦解したという。
これに対して英米軍は、直ちに小隊の中から次の小隊長が選ばれ最後の一兵になるまで小隊の統制は乱れないという。
同列のナンバー2を置かない組織の弱点は、それにとどまらない。トップリーダーが健在でも、ナンバー2たり得ない(つまり組織秩序の中ではトップになる可能性がない)部下は派閥をつくって同列の他者を排除し、組織を支配する(番頭による乗っ取り)。あるいは、部下が仲間を引き連れて独立集団をつくる(分裂)。
こうならないためにも、交替可能なナンバー2を確保し、縦割りではなく組織のヨコの連携(風通し)に気を配る必要がある。
「そんなことできるわけないだろ」とおっしゃいますか? お宅、タテ社会病に侵されていませんか。
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
※参考文献
『タテ社会の人間関係』中根千枝著 講談社現代新書
『権力と支配』マックス・ウェーバー著 濱嶋朗訳 講談社学術文庫
『信長と消えた家臣たち』谷口克広著 中公新書