P.Fドラッカー氏は『チェンジ・リーダーの条件』で
「ベンチャーの挫折の原因はいつも同じである。
第一に、今日のための現金がない。
第二に、事業拡大のための資金がない。
第三に、支出や在庫や債権を管理できない。」
と述べている、すなわち財務上の見通しを持たないことは、事業に成功すればするほどやがて大きな危険な場面を迎える。
ベンチャーとは中小企業の起業家のことで私のまわりにもいらっしゃる。その人達の事である。
ある時「売りモノ」や「サービス」が顧客に受け、急成長して高収益が出だす。経営が面白くなくなり、増収増益の事業計画を建てる。そして、社 内のモチベーションを上げて突っ走る。ところがP/L上ではいつも利益が出ているのに、なぜか納税資金や賞与資金が不足し出す。
銀行にお願いして短期資金として借りる。しかし、毎期同じ繰り返し。
返したと思えば又、借りなくてはならなくなる。
次に事業拡大のための資金が不足し、長期借入を希望すればたちまち担保の壁にぶつかる。ふと株式市場に上場すれば簡単に資金が集まるのではな いかと考える。
中小企業の経営者の大きな勘違いは「売上が毎月上昇すれば経営は楽になる」と考える人がいる事である。
「売上を上げれば上げるほど資金が不足する」という原理原則を忘れてはならないのである。
それは、小売業や外食産業の現金商売でも売上を上げればあがるほど、原材料の仕入が増え仕掛品、製品、商品、棚卸資産が増大し、苦しくなること もある。普通のビジネスは売上を上げても現金ではなく売掛金、受取手形が増えるので、給与等の支払いの為に銀行口座にはお金を寝かさなければならな い。
外食産業のように売上は現金でもらったとしても店舗の保証金や敷金や設備資金が必要で、成長の為に常に事業拡大の資金不足が生じ る。
売上を上げて、利益を獲得し成長してゆけば必ずなぜか資金不足が発生してくるのである。売上を上げても資金的には決して楽にならないのであ る。
B/S(貸借対照表)上は剰余金が多くなっているにもかかわらず、資金不足が起こってくる。長期・短期の借入金がいつのまにか増大しており、 経常利益の50%は現に法人税金として現金流出してしまう。
未熟な経営者は、損益計算書の利益ばかりに目がゆき売上高経常利益に興味が集中して、財務(B/S)に理解力がなく目がいかない。すなわち支 出(資金繰り)、在庫(商品棚卸)、債権(売掛金、受取手形、回収管理)の管理能力が極めて乏しいのである。