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戦略・戦術

第167話 「コロナ禍で見る優勝劣敗」

強い会社を築く ビジネス・クリニック

 コロナショックで想定外の売上減少に見舞われており、経営危機に陥っている会社があります。20年前、30年前は、まさに我が世の春を謳歌した会社でも、気付けば船は傾きかけています。ゴーイングコンサーン、会社を存続させることは、難しいことだと、改めて感じるのです。

 

こうしたショックにおいて、危機に陥る会社というのは、

普段から、財務体質が悪い会社になります。

もともと平常時から借金が多い会社は、ひとたびショックが起これば、

借入金の返済がままならず、右往左往することになるのです。

 

そして、そういった財務体質が悪い会社が、

なぜそうなっているかといえば、経営陣が財務に弱いからなのです。

オーナー企業において、経営危機の真の原因は、

創業一族が財務を勉強してこなかったことにあるのです。

 

財務に弱い会社の特徴として、

 

(1)経営者が売上高にしか興味を示さない

トップは、とにかく売上を上げることを目標にしています。

会議の報告の中心は売上高であり、利益は二の次であり、

キャッシュフローのことなど考えたこともありません。

新規売上の話も、「売上がいくら増えるか?」が中心で、

粗利益や売掛金の回収条件の報告は一切行われません。

 

こういうトップに「会社はどうなったら潰れますか?」と質問しても、

「売上が減ったら」などとトンチンカンなことをおっしゃいます。

会社の血液は売上高でなく、キャッシュフローであることをご存知ないのです。

 

(2)借入残高に無頓着

債務償還年数=借入残高÷キャッシュフロー(営業利益+減価償却費)

これが、7年以内だと青信号(合格)、20年以上だと赤信号(不合格)、

15年なら黄色信号です。

 

また、借入金額が月商の何倍か?という月商倍率も目安になります。

青信号 - 借入金残高が月商の3か月分以内 

黄信号 - 借入金残高が月商の6カ月分以内

赤信号 - 借入金残高が月商の12ヶ月分以上

 

黄色信号が灯っているのに、なんとも思わない経営者がおられます。

 

会議で貸借対照表の報告が一切ないため、

いったい、わが社の借入金がいくらあるのかご存知ないのです。

当然、自社が何信号かも分からないのです。

 

よしんば、借入残高を把握していても、

“借入はこのくらいはあって当然。昔に比べればまだマシだ”と思うようになるのです。

しかし、昔は営業利益が出ていたので、借入残高が多くてもすぐに返せたのです。

いまは、営業利益がわずかで、返す力がなくなっていることにお気づきになっていないのです。

 

(3)撤退判断の基準が感情中心

財務に弱い会社では、赤字部門、赤字店舗が長らく放置されたままです。

 

「早急にそこまでしなくても・・・みんな困るでしょう!」

「もう少し様子を見て、時間をかけよう!」

「せっかく店舗を出したのだから、もったいない!」

「撤退すれば、取引先とのこれまでの信頼関係が崩れます!」

 

判断の基準が、ゼニの勘定ではなく、気持ちの感情なのです。

「頑張れば黒字化できる」「コロナが終わったら」

と何の根拠もなく、希望的な観測に浸って、決断を先送りするのです。

 

逆に財務に強い会社の会議は、常に勘定、つまりキャッシュフローで考えています。

 

私の顧問先に株式会社大崎工機(仮称)があります。

コロナ禍の状況にありますが、豊富なキャッシュを元に、このたび、20億円を超える大型不動産を買収します。

 

この会社は、投資をする際は、常に経営幹部に投資計画表を作成させています。

その計画表は20年単位で作成されています。

 

売上高、営業利益、税引後利益はもちろんありますが、

減価償却費の金額や、資金調達額(自社か銀行か?)、借入条件も当然明記され、

最後はキャッシュフローが計算されています。

それも投資案件のキャッシュフローと、全社キャッシュフローと2種類のキャッシュフローで考えています。

 

「投資をして、何年で回収できるか?」という投資回収期間についても、

計算がしっかりと行われています。

 

大崎工機(仮称)の経営者のように、普段からキャッシュフローを中心に考えていれば、会社の財務体質はやがて強くなり、キャッシュも増えていきます。

自己資本比率は80%、無借金経営で、現預金は15億円(年商の半分ほど)ほど

持っています。

 

こういう会社は、こういう状況では、大きなチャンスとなります。

不動産が売りに出る、あるいは競合他社が手を引き、

バーゲン・セール状態になるからです。

買収交渉はこれまでに比べて格段に買い手有利の状況になり、

必ずよい物件、会社、案件が舞い込みます。

 

このとき、一つだけアドバイスするならば、「焦るな」ということです。

 

N社の場合もそうでしたが、例えば、不動産売買の間に入っている仲介業者は、

必ず買い手を焦らすようにリードしてきます。

「他に、5社が手を挙げています。」

「今週中に、買付証明を出さないと他社に決まります」

「最低でも〇億でないと手に入りません。」

 

これは、売買の対象が不動産でも、会社(M&A)でも同じです。

N社でもそうでしたが、このときに、「買いたい」という欲が強すぎると

、冷静な判断ができません。

 

「今回のコロナショックで他社は手を下げるはず。

金額は相場よりかなり高くなっているから、少し冷静になりなさい。

焦りが一番禁物だよ。」

 

私は、このように若社長に進言し、交渉にあたってもらいました。

最終的に当社予定金額から、4億円もディスカウントして契約の運びとなりました。

 

こうしたショックが来ると、普段から財務に強い会社はますます強くなれるのです。

まさに、優勝劣敗ですね。

 

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