前回、フランス人の、哲学に対する向き合い方について
少しお伝えいたしました。
フランスにおいては、哲学的思考は、
大人向けの本に限らず、一般に児童書と呼ばれるものにも、
色濃く見え隠れします。
たとえば、
『星の王子さま』(訳:内藤濯)
世界で8000万部以上、
日本だけでも600万部超という記録的ベストセラーです。
しかし、自らの座右の書、愛読書として
『星の王子さま』を挙げるのは、圧倒的に女性。
著者のサン=テグジュペリは男性ですし、
作品の序として、男性の友人に捧ぐ、といったことが
書いてあるくらいですから
本来なら男性人気が高くてもいいはずですが…
どういうわけか、そんな声は、ほとんど聞こえてきません。
一体なぜでしょうか?
おそらく、実際に読んだ上での結果ではなく、
イメージの影響が大きいかと思います。
タイトル、柔らかいイラストの雰囲気、児童書という括り。
さらには、有名なこの一節、
「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。
かんじんなことは、目に見えないんだよ。」
から受け取る、ファンタジックな印象。
社会人男性の興味から外れていくのも
ある意味、普通のことかもしれません。
しかし、イメージだけで決めつけて
きちんと読まずに受け流すには、
あまりにもったいない本です。
実際のところ、
本書はそんな生ぬるいものではありません。
子ども向けどころか、
大人の経験と、ある程度の読解力が伴って
ようやく理解できるようになる。
悩み、苦しみ、あれこれ考えた人ほど、
深くその意図を読み取ろうとすればするほど、
実りが大きくなっていく。
そんな一冊です。
物語というより、哲学書と呼んでもおかしくない次元です。
事実、物語のあらすじを読んだところで、
得られるものは、本当に少ないですから。
1つ1つの言葉や行間をしっかり読むことで、
初めて作者の意図が見えたり、対話が可能になります。
大人になると、知らず知らずのうちに
先入観や経験則から判断するようになり、
モノをきちんと見ることが減っていきます。
子どもの頃ならわかったことが、
大人になって見えなくなることは
全く珍しいことではありません。
文中で繰り返し出てくる
“かんじんなことは目に見えない”といったフレーズは
文字通りの部分はもちろん、
「見てるようで見ていない」
ことも含まれているように思います。
学ぶことで人は成長していきますが、
一方で学ぶことで見えなくなることもあります。
思い込みや常識、通念、経験則が
前進を妨げてしまう。
何か壁にぶち当たった場合、
原因は、自分に足りないものがあるからでしょうか?
逆に、
自分が積み重ねてきたものが、
邪魔をしてることはないでしょうか?
本書には、人生の大事なところ、
また、今の時代を反映しているところも、
これからの時代が見えるところもあります。
混迷のこの時代において、
本当の意味で、物事をしっかり“見る”ためにも
一度ぜひ心を空っぽにして、
読み込んでいただくことをおすすめします。
尚、本書を読む際におすすめしたい音楽は、
“『小澤征爾さんと、音楽について話をする』で聴いたクラシック”
です。
『小澤征爾さんと、音楽について話をする』の文中で、
話題として取り上げられた音楽が収録されたものです。
小澤さんと村上春樹さんの対談にも哲学的なところがありますし、
このCDを聴くことで、『星の王子さま』への深みも
増していくかと思います。
ぜひどうぞ!