日本における食品小売業の戦いは熾烈を極めてきたが、その勝敗はほぼ見えてきた感がある。勝ち組の中心は地域で展開する食品スーパー、上位3社に集約されたコンビニエンスストア、食品併売のドラッグストアの3極である。そして、負け組と言えるのはもはや実質的にイオンのみ孤軍奮闘する総合スーパーであるが、そのイオンにしても総合スーパーではほとんど利益は出ていない状況にある。また、いわゆる食品ディスカウンターは、一時期勢いのある時期はあるが、継続的に成長していると言えるのは唯一オーケーくらいではないかと思われる。
そんな食品小売市場において、それらの業態に属さず、独自の業態でますますその存在感を高めているのが、業務スーパーの神戸物産である。そもそも食品スーパーは地域密着であるため店舗数はそれほど多くはない。それに対して同社は全国に店舗展開し、しかも食品専門であるので店舗規模も小型であることから2022年10月時点で1,007店舗と食品スーパー対比では圧倒的に店舗数が多くなっている。
そのような展開パターンでありながら、利益水準は現時点ではすべての食品スーパーを上回っている。2020年の食品スーパーは未曽有のコロナ景気で過去最高益を更新した企業が多く、特に不振企業ほど利益の変化幅が大きくなったため、実力とはやや一致しない利益水準であった。それに対して、2022年度はコロナの影響もかなり収まってきて、各社とも実力に近い水準となってきた。
この2022年度で比較した場合、同社の2022年10月期の営業利益は278億円であった。それに対して、食品スーパーで最も収益性の高いヤオコーでさえ2023年3月期決算の現時点の会社側の予想営業利益は255億円と同社をやや下回っている。
同社の強みのひとつは、これらの店舗は3店舗を除いてすべてフランチャイズだということである。つまり、コンビニと同じ方式である。ただし、同社の場合、コンビニとの大きな違いは、オーナー数の違いである。コンビニの場合、3社合計では数万のオーナーがいるが、同社の場合すべて合わせて100社ほどである。つまり、1オーナーが平均10店舗を経営していることになる。
しばしば、コンビニ経営で問題になるのが、繁盛店があると、そこは商圏が豊かである証拠だからということで、別のオーナーが経営する店舗が近隣に開店して、繁盛店の売上が下がってしまうことである。繁盛店のオーナーにとっては死活問題となる。しかし、同一オーナーの経営であれば、近隣に新規店舗を出店して、旧店舗の売上が多少減少しても、2店舗合計で売上が倍にならずとも大きく増えれば、オーナーにとってもプラスである。この点が、コンビニとの最大の違いであり、個々の店舗が収益を確保できることから、オーナーの出店意欲も旺盛で毎期5%前後で店舗数が増えている原動力となっている。
商品面での特徴は、他の小売業にはない、独自製品の多さである。現時点のPB比率は35%ほどとなっている。日本の場合、食品に関しては消費者のNB志向がかなり強く、PBを前面に押し出し過ぎると消費者は拒絶反応を示す。図抜けたNBメーカーがいない食品以外の製品の場合、ユニクロやニトリなどを筆頭にいわゆるSAP(製造小売業)が隆盛を誇っているが、食品の場合にはPBでもNBメーカーに依存するなど、準PB的な製品も多い。
しかし、同社の場合、独自のアプローチでユニークな独自製品を開発する点が強みとなっている。現在、全国に25工場を持っているが、もともとは中小企業の食品製造業のM&Aによって手に入れた工場が多い。中小企業の場合、後継者難もあって、代替わりで経営を手放す企業も多い。そのような企業を傘下に入れて、その企業の持つ製造設備や技術によって全くユニークな製品を開発するというものである。
最もわかりやすい例を挙げれば、パック入りの牛乳を製造する企業を買収したケースがある。そのまま牛乳を製造しても、安く作れることはあるかもしれないが、うまみは少ない。そこで、同社が開発したのが、牛乳パックにまるまるコーヒーゼリーやプリンが入った製品である。これは今まで世の中になかった製品であり、しかも価格的に見れば、消費者はプラスチック容器に入ったコーヒーゼリーやプリンを買うより、圧倒的にお得感がある。このようにして、同社店舗には他社にない製品があることで、NBメーカー品とは比較しようがない状況を作り出すわけである。
有賀の眼
このようなバックグラウンドの元、同社は直近10年間で年率10.0%増収、20.7%営業増益を遂げてきた。PBのうち独自の輸入品構成比も20%ほどあるため、円安時には若干利益が伸び悩むこともあるが、依然、高成長を続けていると言えよう。
NBメーカーに依存するPBの場合、根本的にはNB製品と同じような製品で、原材料の品質を落として、安売りPBにするケースと、高品質な原料を使ってプレミアムPBを作る場合に分かれるが、根本的な発想は大元のNBと同じである。全く別発想の製品は、コスト高になることもあって、NBメーカーでは受けにくい。それに対して、自社工場がある同社の場合、NB製品とは全く異なる製品も自らで開発できる。
つまり、PB製品で本当の意味で強みを発揮するためには、ニトリやユニクロでもわかるように、全くオリジナルな独自製品が必要である。少なくともPBと言いながらもNBメーカーに依存しているうちは、単にNBメーカーの利益をかすめ取っているだけで、本質的な独自製品とは言えない。その意味で、食品流通での同社の位置づけは別格と考えられ、一体どこまでこの勢いで行けるのか、興味深く見届けたいと思う。