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経済・株式・資産

第4回 新コンセプトの食べ放題店で躍進する「物語コーポレーション」

深読み企業分析

食べ放題の外食と聞くと多くの人は、学生や子供など食べ盛りの人をターゲットにした業態と考えるのが一般的である。しかし、高齢化社会に突入した我が国において、食べ放題店のターゲット人口は減少の一途をたどり、とても成長する業態には見えない。

そうでなくとも、食べ放題を謳った外食企業が継続的に発展した例を耳にすることはあまりない。それなりに永続している食べ放題店にシズラーがあるが、安定的なニーズはあるものの、店舗数が増えているわけではない。日本進出後20年以上経過したものの店舗数はわずかに9店舗に過ぎない。その意味で、食べ放題の産業化は外食産業にとって至難の技とも思える。

そんな状況の中、物語コーポレーションが展開する焼肉きんぐという食べ放題の業態が好調である。2013年6月末で直営62店舗、FC29店舗、総店舗数91店舗と大型チェーンの道を歩んでいる。焼肉きんぐは食べ放題の業態でありながら、いわゆる食べ放題のセオリーを覆す仕組みを採用している。まずは、食べ放題では一般的なバイキング(自分で取りに行く)方式ではなくテーブルサービスを行う。食べ放題にありがちな安価な食材を用いることなく、同社が経営する一般的な焼肉店と同レベルの食材を供給している。

食べ放題のセオリーの逆を行きながらも高収益を享受するために様々な工夫が施されている。まず従来の常識では儲からないはずの業態が儲かっている秘密は、業態が受けたことによって稼働率が大幅にアップしていることだ。従来店舗と比較して、顧客単価は2,400円から2,800円程度にアップする。加えて、来店客数も増加している。同社のデータによると、業界上位の他社と比較して、1店舗当たりの売上高は倍近くになるということである。これによって、利益率が高水準となるのである。

そんなに簡単に儲かるのであれば、すぐに模倣する企業が現れるのが外食業界の常である。外食の場合、模倣がしやすい業界であり、収益性が高い業態を見つけても、どこかに何らかの参入障壁がないと、後発企業群の中に埋もれてしまう。しかし、同社の焼肉きんぐは、一般的な常識と逆の施策によって儲かっているため、先入観が心理的障壁となり、他の経営者とするとなかなか真似がしにくいものである。ここが一つのミソでとなっている。

そうは言っても、その心理的な壁を破って単純に同社の真似をすれば、それで儲かるかというとそういうわけにはいかない。実はそれ以外にも様々な工夫をしているのである。収益化させる仕組み作りが実は大きなポイントとなっている。単純にテーブル方式で、食べ放題をやれば、売上は上がるが、原価も上がり、レイバーコストも上がってしまい儲からない。それを回避する大きなポイントは、いかに原価をコントロールするかということになる。

メニューそのもの、つまり料金のラインナップによってコントロールすることもその一つである。同社には食べ放題のコースが3つある。58品で2,480円、100品で2,980円、120品で3,480円(各消費税別)としているが、ここでのポイントは、顧客は真ん中を選びやすいということである。そしておそらくそれを後押しする要因として、58、100、120という割り振りもポイントになり、真ん中がお得そうに見える。

次がいかに安い原価のもので満腹にしてもらうかということになる。焼肉店ではあるが、牛肉以外に豚肉や鶏肉のメニューを増やすことで、顧客にすれば選べる幅が広がる一方、店側とすればそちらを頼んでもらえば原価が下がるという仕組みである。メニュー自体にも秘訣があり、頼みやすい商品、頼まない商品、あこがれの商品などを組み合わせて、食べる量をコントロールして、客のコスト単価をコントロールするということである。これは実際店舗を運営しながら徐々にノウハウを蓄積して行くものであろう。また、種類をたくさん頼んでもらうため、一皿の量を減らすということもある。一皿の量を減らすと、あれもこれも頼むため、高いものばかり頼まないようになるということがある。

最後は一般的ではあるが、タッチパネルの導入によってレイバーコストを下げるということは必須である。要するに配膳より、オーダーを聞きに行く方の手間がかかるということである。

以上が同社の業績けん引役である食べ放題の焼肉きんぐのビジネス構造である。この業態が当面、同社の成長をけん引することが期待されるのであるが、実はこの食べ放題はほかの業態にも応用できるものである。数年前まで大きく落ち込んでいたお好み焼の既存店が急速に回復した時期があるが、実はこれも食べ放題の導入によるものである。同社がお好み焼き店舗に食べ放題を導入したのは3年ほど前である。それまでのお好み焼き店の客単価は1,400円程度であったのに対して、食べ放題メニューは50品目で1,980円、70品目で2,380円としている。

その結果、2010年12月上期にはお好み焼き店の既存店前年同期比は11.0%増となった。客数は0.9%減であるのに対して、客単価が11.0%増と、このご時世に客単価にけん引された形で売上が伸びたのである。このように、食べ放題という手法は、焼肉だけではなく、お好み焼き店でも功を奏している。

そして今、新業態としてしゃぶしゃぶと寿司の食べ放題店「ゆず庵」を開始している。焼肉店よりは明らかに上の年齢層が狙いである。しかし、中高齢者にはやはり食べ放題はなじまないのではないかと思う。

そこで、必ずしも同店では食べ放題を前面に打ち出しているわけではない。やや敷居の高い和食店で、均一料金のメニューを展開しているという位置づけである。そう考えれば、焼肉もそうだがしゃぶしゃぶ、すし(と言っても回転寿司は別だが)といった高級和食を定額で提供するというコンセプトである。この発想はある面高級ホテルのバイキングに似ているのかもしれない。量をたくさん食べることよりも、おいしいものを多種類食べられるという価値を提供しているのである。

ここでもしゃぶしゃぶだけで食べ放題をしたら収益性のコントロールは難しいが、すしを加えることで、顧客にはお得感を感じさせつつ、収益をコントロールできるというメリットがあることになる。ゆず庵は未だ始めたばかりで試行錯誤中であるが、焼肉店同様のポテンシャルを感じさせるものである。

もっとも、このような高級和食店に近い業態を展開できる背景には、同社の従業員教育がしっかりしたものだということがある。その証拠に同社は経済産業省が選出する「おもてなし企業」に選ばれている。このおもてなし経営企業選とは、経済産業省が主催するもので、経営環境が厳しい時代に、地域のサービス事業者が目指すビジネスモデルの一つとして選出するものである。その選出要件は、①従業員の意欲と能力を最大限に引き出し、②地域・社会とのかかわりを大切にし、③サービスの高付加価値化や差別化を実践する経営となっている。

そして、同社が選出されたおもてなし経営のポイントは、①個性を大切にするがゆえに、「発信・反応」力を求める、②独自の採用と教育制度により、業界平均を大きく下回る離職率、③フランチャイズ加盟店からの要望・意見を会長や社長自らが聞くこととなっている。

 

《有賀の眼》
同社の業態開発の方法を見ていて思うことは、たとえ外食産業といえども実は大きな発想よりも、本当に小さなことの積み重ねが重要なのだということです。これは卸売業が物流倉庫の効率化に取り組んだこととも似ています。小さな積み重ねの努力がやがて大きな差になって表れる。こうなると、何か一つを真似されても、ビジネスが真似されることにならないので、優位性が継続するという点です。  

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