エランは病院や介護施設での入院生活に必要な日用品(衣類・タオル類・紙おむつ・ケア用品など)をセットにし、1日単位で必要なものを必要な時に利用できるシステムを提供する企業である。そんなどうということのないビジネスでありながら、この11年間、年平均成長率は売上高で22.1%、営業利益で25.4%と目を見張るような高成長を遂げてきた企業である。2023年12月期の売上高は414億円、営業利益は37億円、売上高営業利益率8.8%を達成している。
これらのサービスは旧来からあったものと重複するものもあるが、フルカバーする企業が無く不便な面があった。さらに、消費者への請求書の発送や様々な問い合わせ対応などそれらに付随する業務が煩雑であり、介護、看護現場の負担となっていた面もある。それを同社では入院時に必要なものすべてをカバーする形にして、しかも同社が間に入ることで、旧来範囲のサービスに付随する煩わしい業務を同社が負担することで、患者も現場もメリットを享受できるというWIN-WIN-WINの関係を成り立たせた。また、病院、介護施設に委託手数料を支払うことで、病院経営にもメリットがある。なお、その病院、介護施設と従来から取引のあるリネンサプライ業者をそのまま使い続けられるという点も導入がスムーズに進んだ背景である。
もちろん、これらを達成するためには、コーディネーターという立場で従来業務に新たな業者が加わるわけであるから、そのコストに見合うメリットを感じてもらうことと、コストを徹底的に下げる努力は不可欠である。そのために同社では全国に242の自社物流施設を設けて、ローコスト化を追求するとともに災害などの万一の事態への対応も怠りない。
さらに同社ではこの基本的なCSセット(タオル類、日常生活品、衣類)に患者衣を付け加え、また未払い入院費用の補償付きサービスや入院中のトラブル補償付きサービスなどによって付加価値を高めている。さらに、業務範囲の深堀りとしては、入院セットを運営する9社と契約して、個人請求書発行やコールセンター業務なども請け負っている。このように国内においてはサービスレベルを上げつつ、同時にローコスト経営を推進し、高成長、高収益を遂げている会社である。
そして、ここからが最近の目につく動きであるが、まずはインドに進出し、病院向けランドリーサービス会社を立ち上げ(出資比率42.18%)、その他医療材料販売会社や人材派遣会社に数%の出資を行っている。そして2023年にはベトナムのホーチミン市を中心に大手病院向けのランドリーサービスを行うGREEN社を買収し、100%子会社としている。この他の国は未進出ではあるがインドネシア・マレーシア・タイ・シンガポール・台湾などへの進出を計画中とのこと。
このような形のサービス業が東南アジアの国々に自ら進出するというのはあまり記憶がないのではあるが、日本と異なり、こういったビジネスも十分成熟していないと思われ、同社の成り行きに注目してみたい。
有賀の眼
日本という国はこの10年で観光立国という方向性を打ち出し、急速に訪日外国人が増加した。コロナで一旦とん挫したものの、コロナが開けるとあっという間にコロナ前の人数に復活するほど人気国である。ネット上のSNSの訪日外国人の投稿を見ると、日本観光のすばらしさを称賛する投稿があふれている。
空港や都市、交通機関などのインフラのすばらしさ、日本食の価格とクォリティ、神社仏閣や自然の豊かさなどなどその称賛の対象は尽きることがない。さらには日本中どこでも触れることのできるおもてなしの心や国民のホスピタリティなどが称賛されている。
日本企業でもすでにメーカーは数十年にわたってグローバル企業として活躍している。また、サービス業でも外食産業などは徐々に海外での存在感を高めている。メーカーの技術力の高さはすでに長い期間認識されてきたが、外食などのサービス業のレベルもかなり高いようである。
この背景には、まさにローコストかつハイクォリティの運営力があると言えよう。日本人自体はそれほど強く認識しているわけではないが、日本はこの30年間、政府の経済政策の失敗もあって、実質でも名目でも世界で唯一成長しなかった国である。この30年間、世界経済が高成長する中で、どんな国も普通に利益を増やすため、従業員の給料を上げるために常に価格転嫁を行ってきた。
しかし、日本においてはある面、世界で唯一と言っていいほど、価格を極力抑えながら、一方でサービスレベルを上げてきた国と言えよう。値上げが簡単に通る国では、サービスレベルを上げれば、それは値上げの口実になる。むしろ、サービスレベルを据え置きながら、価格だけを上げることさえ普通に行われてきた。その意味において、現在の日本はサービス対比の価格は全世界的に見て異次元になっている可能性がある。
実はこのことに日本人はそれほど気付いていないのではないかと思われるのであるが、そんな中、同社がどこよりも競争の激しいその日本において業界内で勝ち残ったサービスレベルを引っ提げて、本格的に海外進出を行うということは大いに注目に値しよう。ひょっとすると同社の成功は我が国の様々なサービス産業の海外展開の試金石という位置づけになるのかもしれないと感じているのである。