アルファポリスは以前このコラムで紹介したスターツ出版同様、ネットの小説投稿サイトで作家を発掘し、ライトノベルからスタートして、その原作をもとに電子書籍、電子コミック、紙のコミックへと展開する新世代の出版社である。
直近11期間で売上高は7.1倍、営業利益は4.7倍となり、これは年率でそれぞれ19.5%、15.2%と高水準である。直近はコロナ下で膨張した市場がやや調整局面となっていることに加え、これまで大手に比較して見劣りしていた著者に対する印税率を引き上げたため減益となっているが、それでも直近の売上高営業利益率は22.0%と極めて高水準である。
この10年で業界における存在感を急速に高めてきた同社であるが、この1-2年は次の成長ステップとして、同社の原作のアニメ化に取り組んでいる。
同社によると2024年3月期には2作品のアニメ化による放映がスタートし、すでに今年度以降には6作品のアニメ化のスタートが決まっているとのこと。この背景としては、この10年ほどで同社自体の企業規模が拡大し、コンスタントにヒット作品が出るようになったことがある。さらに、これまでは数年に1作品ほどであったアニメ化であるが、そのアニメがヒットしたことで、実績が評価され始めたことが考えられる。必ずしもコミックのヒットとアニメのヒットはイコールではなく、出してみないとわからないという面があり、アニメでの実績が評価の対象となると考えられる。
同社におけるアニメ化によるヒット作の第1弾には2015年の「GATE」がある。これは東京銀座に突如「異世界への門(GATE)」が現れ、その門からなだれ込んできた異世界の軍勢と自衛隊が戦い撃退し、さらには自衛隊が異世界に行って戦う物語である。このアニメがヒットしたことで、そのコミックの認知度が高まり同社にとっても過去の作品が大きく売上に貢献するなどのメリットがあった。
また、2021年には日テレによって「月が導く異世界道中」がアニメ化され、大きなヒットとなった。このアニメ化は、日テレにとっても大きな業績インパクトをもたらしたようで、これによって日テレの同期のアニメ事業は過去最高益を更新するほどインパクトがあったようである。当時の日テレの決算説明会資料によると、この「月が導く異世界道中」は国内において、dアニメストアでデイリー1位、Netflixで国内2位を記録したとのこと。さらに、海外では異世界アニメがブームとなっており、「月が導く異世界道中」は日テレの史上最高の海外セールスを記録した模様である。
この日テレの高収益が直接的に同社の収益に結びつくわけではないが、TV放映によって同社の過去の関連書籍の売上が増えるという恩恵があった。さらに、味をしめた日テレでは直ちに「月が導く異世界道中」のTVアニメ第2期の制作も決定した。それを受けて、2024年1-3月、4-6月の2クールにわたって第2期が放映中である。同社の前第4四半期の売上が好調であった背景にはこの影響もあったものと考えられる。
すでに、この4月からは、「Re-Monster」と「GATE」の第3弾である「THE NEW GATE」が放送中となっている。また、7月からの放送予定には「異世界ゆるり紀行~子育てしながら冒険者します~」、開始時期未定ながら2024年中に「さよなら竜生、こんにちは人生」、さらに2025年1月放送予定で「いずれ最強の錬金術師?」があり、アニメ作成中の作品に「強くてニューサーガ」と今後アニメ化作品が目白押しとなっている。
これらの作品はこれまで同様、過去に出版した書籍の販売増に貢献するが、それだけではなくアニメ事業自体による利益の創出・拡大にも力を入れている。一つはアニメ政策委員会に対する出資比率自体を引き上げることがある。これによって、アニメ自体の収益も業績貢献が期待できる。
また、今後は自社で保有するIPの活用をさらに拡大させ、他社との協業や同社独自の展開を多面的に進めて行くと述べている。具体的にはグッズ化、ゲーム化、舞台化、実写化などである。もちろん、これはこれまでも大手出版社では行ってきたことであるが、同社もいよいよそのステージに到達し始めたということであり、今期が同社の出版社としてのステージが一段階上がる局面に来たと位置付けられよう。
有賀の眼
長らく出版業界は不況産業と言われてきた。しかし、電子書籍市場の急成長によって、電子書籍依存度の高い大手出版社のここ数年の業績は急拡大を示し、過去最高益を大幅に更新した。もっとも、直近2期はコロナ下における電子書籍市場の異常な膨張の反動で減益となってはいるが、利益水準自体は過去とは比較にならない水準にある。
それでも出版業界全体を見れば、厳しい企業も多いが、同社やスターツ出版のように、そんな出版業界においても電子書籍市場拡大の機会をとらえ、高成長を遂げる企業が出現している。その意味において、見放された市場故、意外と大化けするチャンスがまだまだ残っているのではないかと感じられるのである。