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社長業

第5回「全てのことは願うことから始まる」

繁栄への着眼点 牟田太陽

 亡くなられた第十四代酒井田柿右衛門先生のお話を聴いたことがある。父と同じ佐賀県ということで、私も小さい頃から有田焼の器を多く使ってきたし、実家にも柿右衛門作の器が多くあった。人間国宝である第十四代は、絵付けの技術が素晴らしく、白い磁器の上に描かれた花々は凛として美しく、また時期の白い美しさをとてもよく引き出している。伝統である赤、青、緑の色使いは何時間見ていても飽きないくらいに深い。シンプルな色使いであるからこそ、その深さには人の心を掴むものがある。私も絵を描く者として嫉妬すら覚えるくらいだ。 そんな第十四代が私の隣に座った時は、嬉しさのあまり質問攻めにしてしまった。
「どんな絵の勉強をしてきたのか」「赤、青、緑の配色について」「磁器の形とデザインについて」など、第十四代は丁寧に答えてくれた。いま思うと恥ずかしい質問をしたものだと思う。 「どんな絵でもいいから一日一枚絵を描くこと」この言葉が私の心に刺さった。この言葉は「絵」のことだけではない。全てのことに通じる言葉だ。
 上手くても下手でもいい。地道な努力が全ての基礎となるのである。何でも最初から上手い人などいない。その才能を見つけてくれた人がいて、その才能を伸ばしてくれた人がいて、そして何よりも大きいのは、結局のところ自分の日々の努力なのだ。努力は自分を裏切らないと私は信じる。 絵を描くことも、経営も同じである。
 私が一冊目の本を執筆した際、サインを頼まれたときに必ず書いた言葉がある。
 「全てのことは願うことから始まる」という言葉だ。「こうありたい」と強く強く願うこと。
 5年後、10年後、30年後、会社としてどうありたいのか。強く強く思い描かなければ決して達成することはない。しかも、社長の心の中にあるだけではだめだ。なぜならば、実行するのは社長ではなく、社員の皆だからである。
 社長は、全社員に対して、心の中にあるモノを100%実現できるとは限らない。人間国宝である第十四代であっても、何度も何度も練習をしたり、ときには何度も何度も描き直したりもしただろう。
 いま、この文章を書いている私だってそうだ。「どうしたら一人でも多くの社長の心に刺さるのか」その気持ちで何度も何度も書き直しながら書いている。そして自分が心の中で思い描いている100%に近づけていく。それでいいではないか。 重要なのは、まず全ての原点である、自分の「こうありたい」と願う気持ちを持つこと。そして、そこにどう近づけていくか努力をすることである。
 「所詮、人生は自分の想い描いた通りにしかならない」
 「こうなりたい」と強く強く願えば、必ずそうなるものだ。大きく夢を描き、その夢に向かって、自分自身の「今日の一日一枚」を大切にしてほしい。
※本コラムは2019年6月の繁栄への着眼点を掲載したものです。

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