「売上の回収期間を縮めなさい!」と常々申し上げております。
2020年9月12日付けの日本経済新聞1面で、
「手形決済60日以内 中小資金繰り改善へ短縮」との記事が掲載されました。
最長120日までの決済期限であったものを、60日以内にすることで、下請法における実務通達を見直す、とのことです。
いつから、との明確な記載はまだありませんが、この方向性は変わることなく、改正が行われてゆきます。但し、改訂から短縮への猶予期間は3年あるようです。
下請法の法律そのものに、「決済期日期限は120日」等と記載されているのではなく、公正取引委員会からの通達によって、「決裁期限は120日」と管理監督されています。
なので、その通達を守らない場合、法律違反ではないものの、公正取引委員会による行政指導を受ける、ということになり、社名公表になります。
結局、法律に違反ではないが、コンプライアンスへの対応が不十分、という扱いになるのです。
中小企業で受取手形の内訳を拝見していると、過去には上場企業や大企業の売り先ほど、決裁期限が長い、と言われていましたが、近年は変化して短くなってきました。
しかし、業界においては手形や長い決済がまだ存続しています。今回の改正も、昨年、経済産業省によって行われた、大企業に対する決裁期限に関するアンケートの結果が影響しています。
アンケートにおける手形決済の平均日数は、今も110日だったのです。
経済産業省は数年前から、《下請け企業に対する支払いを早くせよ!》と大企業に促していました。2016年、トヨタが手形払いから現金払いに転換した、という記事をご記憶されている方もおられると思います。
しかも、アンケート結果では、
「短縮せず、今後も現状のまま」という回答が多数を占めました。
「短縮要請してもダメならば、通達を改正するしかない。」
となり、経済産業省と公正取引委員会の間で協議され、今回の決済期限短縮(60日以内)となったのです。
中小企業では支払手形もまだまだ多いです。その要因のひとつが、
「元受けからもらう手形の期限が長いので、支払いも手形で長くなってしまいます。」
ということがあります。
手形は二度の不渡りで銀行取引停止となります。事実上の倒産のリスクを負っている決済手段なのです。そのようなリスクのある手段は、取り扱ってほしくないのです。
ある顧問先でのことです。社長自ら出向き、決裁期限が長い売り先に、今回の期限改正の記事を提示しました。
「実は先日、このような記事を見かけまして、御社も今のうちに対応しないと、コンプライアンス上、問題になろうかと思います。猶予期限の間際になって実行するのは、大変ではないでしょうか。」
とやんわり情報提供する体で、先方の社長にお伝えしたのです。
後日、その社長から、
「担当者にも伝えているから、改めて担当とお話ししてください。」
との連絡が入りました。
担当者に会いに行くと、次のように言われました。
「社長から聞いております!申し訳ございません!下請法のことがまったく頭に入っていませんでした!
来月分から、月末締めの翌月末払いでの現金払いにさせていただきますが、よろしいでしょうか?」
そこまで縮むと思っていなかった社長は、内心はもう大喜びのガッツポーズです。しかし、その喜びをグッと押し殺しながら、「結構でございます。ありがとうございます。」と落ち着いた表情で返答したのです。
組織が大きくなるほど、担当者は支払い方法など資金繰りに無頓着であり、現状を変えたくないものです。しかし、ひとたびトップから直接に指示が下れば即座に動くのも、大きい組織の特徴なのです。
取引額の大きな売り先の決裁期限を短縮できれば、資金繰りはずいぶんラクになります。短期借入金も必要なくなります。
そうなれば、総資産は縮み、余計な金利の支払もなくなるのです。
今も受取手形があるのなら、金額が大きく、決裁期限の長い会社から順に交渉を行い、期限を短縮するか、現金払いの取引に切り替えるよう、取り組んでいただきたいのです。