事業活動には1年間と言う会計期間があります。
その会計期間のスタートは必ず期首のバランスシートです。決算日が3月31日の会社は、現金や預金、売掛金や在庫等の資産や支払手形、買掛金、借入金等の負債の残高が前期末の3月31日から繰り越され、事業開始は前期から繰り越された資産、負債そしてその差額の財産を前提として開始します。
どんなに素晴らしい損益の予算を立てても経営が厳しいままである理由のひとつに、期首のバランスシートの状態が悪いことにあります。
借金ゼロを目指すのであれば、一番重要なことは、将来のバランスシートにおいて借入残がゼロになるように目標設定することです。
この場合、金融機関との返済計画は無視すべきです。本当に早期に借金を返済したいのであれば返済計画とは別個に考えるべきです。
期首のバランスシートの残高を前提として、1年後2年後そして3年後の、たとえば、現金の残高、預金の残高等の目標数値を一つ一つ決めていきます。
期首に借金が5億円あるにもかかわらず1年後に借入残高をゼロにすることはおかしいことは誰でもわかるでしょう。
また、今まで手形を発行していたのに、1年後に突然ゼロも変です。つまり、バランスシートの目標は嘘をつくことはできないのです。ここが損益との大きな違いです。
この様にして、バランスシートの項目一つ一つについて設定した目標を合算してバランスシートを作成した後にそのバランスシートをじっくりと眺めてみます。
大切なことは、作成したバランスシートが『心地いい』かどうかです。この感覚は単純な経営分析などではわかりません。
たとえば、適度な借入金があった方が、緊張感があり経営が引き締まると考えている社長にとって借入金の存在は心地いいのです。心地よさは社長によって違って当然です。
自社のバランスシートが心地いいかは、すぐに分かるものではありません。しかし秘訣はあります。何度もバランスシートを眺めてみること。残念ながらこれしかありません。
分かりにくければ、何年か分の貸借対照表を比較してみることをすすめます。過去の損益計算書を見ても企業の歴史はわかりませんが、バランスシートを過去にさかのぼって数値を並べてみますと自分の会社の歴史や性格がよくわかってくるものです。
さてバランスシートの目標数値が決まれば、次はどのようにしてバランスシートの目標に向って行動していくかになります。
その場合に必要になってくるのが今後1年間の損益や資金収支の予想数値になります。
期首のバランスシートからスタートして、着地である期末のバランスシートの目標数値を達成するために必要な売上金額や収入金額などを考えなければなりません。
現実問題として、1年後の目標バランスシートの数値が達成できるのか否かを損益と資金収支で検証しなければ行動ができなくなるからです。
ここで手順を間違えてはいけないことがあります。必要な売上算定の前に、必要な営業収入を確定しなければならないことです。
損益よりお金が先です。
これは借入返済資金の確保や黒字倒産を避ける為でもあります。
そのために計算しておかなければならないものが、あまり聞きなれないかもしれませんが資金収支分岐点です。
利益がゼロになる売上がいくらかを計算する損益分岐点はよく知られています。
ちなみに損益分岐点の売上高算定には粗利益率と固定費の情報が必要になります。しかし利益がゼロになる売上を達成しても、借金の返済を考慮していないため実践的ではありません。
ちなみに損益分岐点売上は次の式で算定できます。
この式により、実際の粗利益で固定費を賄う為の売上高が算定でき、これが損益分岐点の売上となります。
しかし、借金がある場合、この売上では借金返済は賄えるはずがありません。そのため、分子に借金の返済を考慮した別の分岐点の計算が必要になってきます。これが資金収支分岐点です。
資金収支分岐点売上は次の式で算定できます。ポイントは分子に営業固定支出等と借入金返済額が入ることです。
営業固定支出等は、キャッシュフロー計算書(直接法)の営業活動によるキャッシュフローの営業支出のうち固定分、つまり人件費支出、その他の営業固定支出、利息支払、法人税等支払になります。
この式で算定される金額は、資金収支分岐点における営業収入です。
営業収入とは、現金売上、売掛金回収、手形入金等売上代金の回収金額であり、損益計算書の売上高とは異なります。資金収支分岐点における営業収入を算定し、そこから目標とすべき売上をはじき出すのです。
ここで、一つ、知識が必要になります。
損益分岐点分析で使用します「損益分岐点の位置」のお話ですが、少し時間がかかるため、次回にします。