先回
257号において、一年前の2012年4月に、K社埼玉工場(従業員規模50人)で全社的な5S活動が始まったというところまでお話ししました。
そこで今回は、こういう5Sをはじめた結果、どのようなことが起きて、そして一年後の今はどうなっているかをお話しいたします。
まず、社長が一緒に5S作業をしたことで、それまで現場従業員が抱いていた5Sに対する考えが180度変わりました。
というのも、以前から5Sが大切ということは社長から聞いてはいましたが、まさか社長自らが一緒に泥まみれになって作業をするほど、大切な事とは思っていませんでした。
そして、社長がひざまずいて床にこびりついた汚れをスクレーパーで削り取っているのを見て、ここまで汚したのは自分たちだということと、その始末を社長にやらせてしまい、申し訳ないという気持ちを持ちました。
K社で、「工場は汚くて当たり前」という思い込みが取り払われた瞬間でした。
それと、これまではあまり付き合いが無かった営業部門の人たちが一緒であったことも、大変に大きな影響をもたらしました。
今回のきっかけは、営業部門の担当者が新しいお客様をお呼びして工場を見てもらい、何とか注文を取りたいというはっきりした目的がありました。
工場現場の人たちは、急激に仕事が減って不安を感じていましたので、お客様が工場をご覧になって、「これだけきれいな工場なら信用できる。品質も納期も大丈夫だろう。見積もりをして下さい」と言って下さるレベルの5Sが必要なのだという営業の言葉に、素直に納得したのです。
すると、5Sの現場ではこんな会話が行きかいました。
営業 「お客様に仕事の流れが分かるように工程名を表示しませんか?」
製造 「分かったよ、工程名だけでいいかな?」
営業 「工程の順番に番号も付けてくれませんか?」
このような感じで、テーマに沿った真面目な雑談をしているうちに、どちらともなく次々とアイデアが出てきて、結果として、ラインごとに色を塗り分けた看板に、その工程が全工程中の何番目かが分かる工程番号を頭に付けました。
たとえば、全部で11工程あるうちの7工程目「仕上げ研磨工程」であれば、「7/11 仕上げ研磨」といった表示です。
営業 「これはいいなあ、早くお客様に見せたいよ!」
製造部門の皆さんは、これまでお客様というものをあまり意識したことがなく、営業部門のことを「いつも無茶ばかり言うイヤな奴ら」と思っていたのですが、一緒に仕事をしているうちに仲間意識が芽生えてきました。
彼らが注文を取ってきてくれないと仕事が出来ないという事実が分かり、工場がショールームとして機能することで、営業が注文を取るための支援ができるという気持ちになってきました。
つまり、これまで敵と思っていた営業が仲間となって、全体最適の活動が始まるきっかけとなった瞬間でした。
こういった感じの気合の入った5Sが始まった結果、半年くらいでK社埼玉工場は見違えるようなきれいな工場になりました。
入口にはお客様用に工場の全体レイアウトが一目で分かる素敵な手書きの案内板が貼られ、工場の生産品が分かり易いポップで解説されたショーケースも作られました。もちろん、これらは営業からの依頼ではなく、製造部門自らの発案で作られました。
そして、営業の担当者がお客様をお連れすることになった前日、営業と製造の責任者が集まって準備の打ち合わせが行われました。その時に営業担当者が、申し訳なさそうに一つの提案をしました。
営業 「もしできたら、各工程の説明は製造の担当者にやってもらえないでしょうか? 明日お連れするお客様はかなり厳しい質問をされるので私では無理かも…。」
製造 「分かった、やってみよう! 心配だから今晩練習するよ」
初めての経験だったので最初は緊張で汗だくでしたが、お客様は製造の方たちの真面目で本気の対応に、好意的な反応をして下さいました。そして嬉しいことに、予想以上の注文を下さったのです。製販が一体となった営業活動は大成功しました。
その後、営業は積極的に新規のお客様をショールームとなった工場にお連れするようになり、一時期激減した注文は徐々に回復し、あと少しで元通りのレベルのところまで来ています。今年は景気回復が期待できるので、今は増産体制の準備を始めています。
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