先回、若手銀行マンのNさんに「優れたモノづくり」を見抜く切り口として、
「最強のモノづくり」における「レベル1 工程内の流れ」をご説明したことをお伝えしました。そこで、なぜそれを選んだかをお伝えするために、今回は
「最強のモノづくり」を書いた当時の時代背景をご説明したいと思います。
「最強のモノづくり」は、今から14年前の2001年に共著者の御沓佳美(みくつ よしみ)氏と執筆し、日本経営合理化協会から出版されました。当時は中国が世界の工場として台頭し始めたころで、日本の製品がその価格の安さなどから中国品に取って代わられることが増えて来ていた時期でした。
品質面では明らかに日本製のモノが上であるという認識はありましたが、中国製品のコスト競争力は強烈で、このままでは日本のモノづくりが滅びてしまうのではという危機感が生まれていたのです。
これは大変なことだと考えた私たちは、当時の日本のモノづくりをあらゆる面から検討し、それまでの作業能率向上を中心とした改善活動に対して、流れのレベル向上を中心とした改善活動を提案しました。
理由の第一は、それ以前の「作れば売れる時代」に有効であった「より速く、多くつくる」という改善を続けた結果、計算上でコストが下がり利益が出ていても、実際には在庫が増えキャッシュが減り、企業体力を弱めている会社が増えていたことがあったからです。
それと、当時の中国の労働賃金と為替の競争力はダントツであったので、作業スピードという同じ土俵上で競争しては、設備などの工程構造が同じであれば、差別化が難しく、とても勝てないということもありました。
すなわち、それまで日本のモノづくりは大きな成果を上げており問題はないように思われていましたが、作れば売れる時代の終焉と為替競争力の強い新興国の台頭という大きな時代変化に、これまでのやり方だけでは勝てない状況に追い込まれていたということです。
では、なぜ「流れのレベル向上」かというと、主に二つの理由がありました。
一つは、高級で精密な製品を、お客様をお待たせることなく短納期でお届けすることは競争力の向上になることが分かっていたこと。そしてもう一つは、「流れのレベル」を上げる活動は一人では到底できず、設計・営業・技術・製造・管理といった会社機能のすべてが一致協力する必要があり、これこそが日本の得意とするやり方であったからです。
決して簡単ではないけれど、みんなで協力してコツコツやれば必ずできるテーマです。そして、できてしまえば日本以外ではできないのですからオンリーワンになれるということです。
しかし現在、日本の工場であればすべてがこの考え方を取り入れているかというと、残念ながらできていないことがまだまだ多いのです。個々の作業者は頑張ってくれているけれどバラバラな状態での頑張りなので、総合効果には程遠いといったことが多くあります。
そして、いうまでもなく中国の製造業はその後、実力を大幅に向上させています。だからこそ、日本の製造業が改めて能力を向上させる必要があるということです。
そこで、広く工場を見る機会があるNさんに、まずはその工場が流れの考えを持っているかいないかを判断していただくために、レベル1の工程内の流れの有無を切り口にして見ていただくようお願いしたのです。
Nさん、もしこの文章を読んでおられたら、その後の成果をご連絡いただけませんか?
《最強のモノづくり 6段階》
・レベル1 工程内の流れ
・レベル2 工程間の流れ
・レベル3 工場内の流れ
・レベル4 工場間の流れ
・レベル5 お客様への流れ
・レベル6 一気通貫の流れ