新内閣で「デジタル庁」の創設に向けた準備室に室長が任命され、政府も本腰を入れてデジタル化を進めるようです。
企業でもデジタル化は加速しつつありますが、古い商慣習を変更するのは容易ではありません。
日本の伝統的な商慣習に、手形があります。
実は、この手形も電子化で発行枚数が毎年減少し続けています。
御社では代金の支払いや回収に、手形を毎月何枚扱っていますか?
●手形の発行枚数は毎年減少傾向にある
以前は、商取引の決済手段の中心であった手形ですが、バブル期の1990年と比べると、2019年の年間の発行金額は約20分の1に減少しており、発行枚数も同様に年々減り続けています。手形離れの原因には、不渡りによる倒産の回避、取引のグローバル化、インターネットバンキングの普及などが考えられます。
最近では、2013年から始まった手形の電子化サービス「でんさいネット」の利用が大きく影響しています。いわゆる手形交換所がインターネット上に移行しつつあるということです。
「でんさいネット」は、紙の手形の減少とは反比例して、利用件数が増え続けています。現在では、45万社以上が利用し、毎月約2兆円が決済されています。
御社の経理では、「でんさいネット」を利用していますか?
●手数料の負担が手形の電子化を妨げている?
手形の電子化サービスとして、製造業や卸売業の大企業を中心に普及しつつある「でんさいネット」ですが、一方で中小企業の利用が伸び悩んでいるのが問題視されています。
決済の電子化により、企業と金融機関の事務負担を軽減し、日本経済全体の生産性の向上を目指してきましたが、中小企業の経理が対応できていないのです。
「でんさいネット」を利用するには、原則としてインターネットバンキングの利用が必要です。しかし、インターネットバンキングを利用していない中小企業も少なくありません。
また、中小企業で手形の電子化が進まない理由の一つが、手数料の負担です。銀行の各種手数料と同様に、「でんさいネット」も決済や、譲渡、割引などに手数料がかかります。大企業に比べて、手形金額が少額の中小企業にとっては、手数料の負担が重荷に感じるようです。
御社で、手形を電子化しない理由は何ですか?
●節約よりトータルで考えたほうがコストは削減できる
インターネットバンキングや「でんさいネット」の手数料の負担を気にして、利用を控えている中小企業の経理は、経理事務のコストを考えていません。
紙の手形を使って事務作業をすると、手形の作成(チェックライター、印紙、押印、控え記録)、書留郵便、手形帳への顛末記載、会計伝票起票など、決済処理が完結するまで手間がかかります。手形を振り出す側と受け取る側の両方で、経理事務に時間とコストをかけているのです。
中小企業の経理社員は、この目に見えない自分の作業コストを考えずに、社外へ支払う手数料という見える費用だけを節約しようとしてしまいます。この経理事務員の作業時間に相当する人件費を考えたら、「でんさいネット」の手数料は安いものなのです。手形を電子化すれば、印紙代も節約できます。管理事務を、インターネット上で短時間で処理できます。
御社の経理社員は、自分の事務コストを考えていますか?
●困らないように、電子手形の準備を進めておく
支払う側が「でんさいネット」で支払おうとしても、受け取る側が「でんさいネット」を利用していなければ、支払いができません。実際に、「受け取り側がでんさいネットを利用していないから手形がやめられない」ケースが、約4割もあるそうです。
このように、中小企業のデジタル環境が未整備のため、手形の電子化手続きが停滞しているのです。慣れている紙の手形を使い続けることで、自社の経理事務に時間がかかるだけなら、大した問題ではありません。しかし、取引先の経理事務に負担をかけていることも忘れないでください。
取引先の経理から、「いい加減にデジタル化してください」と言われないうちに、対応したいものです。取引先から手形の電子化の話がきたら、受けられるように準備を進めましょう。
御社の決済のデジタル化は、何年後に完了する予定ですか?