2023(令和5)年10月から、いよいよ消費税「インボイス(適格請求書)」制度が始まります。
会社が発行するすべての請求書や領収書の様式が変更されます。
販売システムやレジだけでなく、会計システムや受発注システム、ネット通販などのさまざまなシステムで対応が必要になります。
社長にとって頭が痛いのは、ITツールの導入やシステムの変更に臨時の出費がかさむことです。
先立つ資金が不足している中小企業では、日々の仕入れや経費の支払いを優先せざるをえません。どうしても、IT投資は後回しになってしまいがちです。
このような資金的な問題でデジタル化が遅れる傾向にある中小企業のために、政府が準備しているのが「IT導入補助金」制度です。
そこで今回は、経理のDX(デジタルトランスフォーメーション)を促進するために有効な「IT導入補助金」制度について説明します。
御社は、経理のデジタル化を進めていますか?
経理DXに使えるIT導入補助金「デジタル化基盤導入枠」
IT導入補助金の制度はここ数年継続して実施されています。しかし、年度によって対象となるソフトウェアやハードウェアの範囲などが変更されることがあるので、注意が必要です。
注目されているのが、消費税インボイス制度の対応のために、2022(令和4)年に新たに儲けられた「デジタル化基盤導入枠」です。
この「デジタル化基盤導入枠」で対象となるソフトウェアは、会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトです。
まさに経理関係のデジタル化・IT化を検討している企業にとっては、うってつけの補助金です。
ただし、補助金の申請手続きはITツール導入前にしなければなりません。
消費税インボイス制度の対応のために会計ソフトを購入し、その後にあわてて申請しても間に合いませんので、忘れずに事前に申請してください。
できればIT導入補助金を申請する前に、自社の業務内容や取引の流れをITベンダーやITサービス事業者などの専門家に相談し、自社に適したITツールの利用形態を提案してもらうことをおすすめします。
御社は、消費税インボイス制度の対応をいつ頃する予定ですか?
「デジタル化基盤導入枠」補助額は最大350万円
今回のIT導入補助金「デジタル化基盤導入枠」を使って、経理関係(会計・受発注・決済・EC)のITツールを導入する場合、最大350万円の補助が受けられます。
補助の対象となるのは、ソフトウェア購入費、導入関連費、ハードウェア購入費です。
補助される割合は、全体の経費の「2/3以内~3/4以内」ですので、全額が補助されるわけではありません。
ソフトウェアに関しては、パッケージソフト代やシステム開発費だけでなく、クラウドサービス(クラウド利用料最大2年分)も対象になっています。
ハードウェアはパソコン、タブレット、プリンター、スキャナー、複合機などが対象です。
その他、店舗のデジタル化を考えている会社には、キャッシュレス決済用のPOSレジ、レシートプリンタ、自動釣銭機、カードリーダ、バーコードリーダ、Wi-Fiルータなども対象となりますので、ぜひ検討してみてください。
御社の今期のIT投資予算はいくらですか?
社内の複数システムを連動させて、業務効率を向上させる
これまで中小企業のシステム導入では、業務ごとに別ソフトを導入することが主流でした。
・経理の仕事――「会計ソフト」を導入
・請求書の発行――「販売ソフト」を導入
・店舗売上の集計――「レジ」を導入
したがって中小企業の場合は、今回の消費税インボイス制度の対応においても、これまで同様に各部門の業務ソフトを単体で導入したり、既存ソフトを単純にバージョンアップしたりして終わらせてしまうケースが多いでしょう。
そこで今回のIT導入補助金を使って、適用範囲を広げて、複数の業務を連動させた活用を検討してみてはいかがでしょうか。
社内の複数の業務をITツールで連動すると、単体で使うよりも圧倒的に会社全体の業務効率が向上します。
例えば、次のような業務の連携ができないかを考えてみます。
・「経費精算」と「会計」を連動――社員と経理の作業が軽減する
・「販売」と「会計」のデータを共有――営業と経理が共同して売掛金を管理する
・「請求書」をクラウドで取り込む――会計から支払まで一括管理する
市販のパッケージソフトだけでなく、今はさまざまなクラウドサービスが提供されているので、選択の幅が広がっています。
初期投資額が少ないクラウドサービスは、少人数の中小企業に適しているでしょう。
また、ITの専門スタッフがいない中小企業にとっては、データやシステムを社内で管理するよりも、クラウドサービスに任せたほうが楽だと思います。
御社では、社内のデータの流れはスムーズですか?
ITツールの活用で、社内の生産性を向上させる
今回は、経理DXを促進するために有効なIT導入補助金「デジタル化基盤導入枠」の制度について説明しました。
この機会に、これまでおろそかになっていた経理関係のIT化を見直し、予算的に不足している部分についてIT導入補助金の活用を検討しましょう。
・会計、受発注、決済、ECのIT化について、専門家に相談する
・ソフトウェア/ハードウェア購入費、導入関連費について、予算を見積もる
・クラウドサービスを利用した複数業務間の連動について、検討する
消費税インボイス制度は、請求書や領収書の様式の変更だけではありません。企業間の取引の電子化を促し、電子インボイス(請求書や領収書等の電子取引)による経済活動の効率化が期待されています。
業務のITツール化が遅れた会社は、いつまでも非効率な手作業に追われ、どんどん社会から取り残されていくことになるでしょう。
社長としては、社内の労働生産性を向上させるために、今後IT化ツールの導入は避けて通れません。
IT導入補助金を利用して経理関係にしたIT投資は、社内の業務効率の向上という形で回収されていきます。
御社が、経理関係のIT投資を最後にしたのはいつですか?
*第31回のコラム「10月1日[消費税インボイス制度]登録申請スタート」では、「インボイス制度の導入にあたり経理が準備しておくこと」について説明しています。こちらも参考にしてください。
https://plus.jmca.jp/kodama/kodama-031-2110.html
*本コラム内容は作成日(2022年5月17日)時点の情報に基づいています。
(参考)
一般社団法人 サービスデザイン推進協議会「IT導入補助金2022」
https://www.it-hojo.jp/