コロナ禍におけるテレワーク・在宅勤務を機に、ペーパーレス化に取り組む企業が増えています。
前回は、社内書類のペーパーレス化についてお伝えしました。
今回は、社外との取引に関するペーパーレス化について見ていきます。
最近、顧問先の会社などから次のような問い合わせが増えています。
「取引先から契約書を電子化すると言われたが、どうすればいいでしょう?」
「業者が請求書をPDFでメールすると言ってきているが、紙がなくても税務調査で問題にならないのでしょうか?」
実は、この問い合わせの背景には、ある法律の改正が関係しています。
●電子帳簿保存法の改正で、ペーパーレス化が急速に進む
今年2020年10月から、税務関係書類の電子化について取り決めた電子帳簿保存法が改正されます。
電子帳簿保存法が創設(1998年)されて、すでに20年以上が経過しています。
しかし、契約書や請求書、領収書の電子保存についての実際のところは、企業においてはあまり活用されていませんでした。
改正前の制度では、紙の書類をスキャナーなどで電子化するのを前提にしていたからです。
それが今回の改正で、電子取引については、電子データのままの保存が認められるように変わります。
つまり、契約書や注文書、請求書、領収書などの企業間の取引文書のペーパーレス化が、税務上も認められるようになるのです。
コロナ禍におけるテレワークの推進の足かせになっていた、紙とハンコの問題が、今回の改正で税務上も解消されることになります。
これにより、企業間取引のペーパーレス化が急速に進むことが予想されます。
この機会に、今後の電子文書への対応について、準備しておきましょう。
御社では、電子文書の依頼があったらどのように対応しますか?
●電子取引をデータ保存すれば、コストと手間が大幅に省ける
コンピュータで作成した文書については、紙に印刷せずに、電子データで受け渡しを行い、電子データのまま保存することが可能になります。
たとえば、取引先との契約書を紙に印刷してお互いに押印していたのをやめて、PDFファイル形式で電子認証して双方がデータで保管するようにします。
紙の文書ではないので、印紙を貼る必要がありません。印紙代も節約できます。
御社では、印紙代に年間いくら支払っていますか?
また、注文書や請求書、領収書などを紙で受け渡すのを廃止し、データ(PDFファイル等)で電子メールに添付して送受信することも認められます。
インターネットで購入したものについての請求書や領収書も、プリンターで印刷せずにデータで保存したり、画面イメージ(ハードコピー、スクリーンショット)を利用したりすることができます。
FAXで受信した注文書なども印刷せずに、複合機を利用して電子データの状態で保管することも可能です。送る側は、パソコンで作成した書類を印刷して押印し、郵送する手間が省けます。受け取る側は、書類を受け取って、紙を見てデータを入力し、整理して保管する作業が大幅に楽になります。
御社は、月に何枚の請求書や領収書を処理していますか?
●電子取引に関する税務署への事前申請が不要になる
もう1つ、制度があっても普及しなかった原因があります。
電子化して保存する前に、税務署へ届け出なければならなかったことです。
今回の改正で、電子取引に関してはこの税務署への事前届出が不要になります。
ですから、今年の10月からすぐに始められます。
現在、日常的に書類が大量に発生する大企業では、電子文書スタートの準備をしています。
大企業と取引がある会社は、これから電子取引の対応を迫られます。
中小企業も、「ペーパーレスなんて当分先の話だ」などとは言っていられません。
電子取引や電子文書の制度の概要を理解して、ペーパーレス化の話が来ても慌てないようにしておきましょう。
御社の社員は、電子取引について理解していますか?
●電子取引の対応には準備が必要
税務署への事前申請がないからといって、「すぐに紙の文書を廃止して電子化してしまえ」、というわけにはいきません。
紙ではなく電子データで保存する場合には、いくつかの要件を満たす必要があります。
大事なのが、電子データが原本であり修正削除されていないことを証明しなければならないことです。
そのときのキーワードが、「電子認証」と「タイムスタンプ」です。
電子認証は、ハンコやサインの代わりになる電子的な証明です。
タイムスタンプは、文書作成の日付時刻の電子記録です。
どちらもシステム的な仕組みを設定する必要があります。
そして、タイムスタンプは政府の認定機関によるものでなければなりません。
つまり、電子文書の作成にはそれなりの準備と費用がかかるのです。
御社の3年後、請求書を紙と電子のどちらで発行していると思いますか?
●ペーパーレス化に早めに着手すべき理由
テレワーク・在宅勤務は、今年だけの臨時的な状態とは限りません。
今後も、新型コロナウイルスの感染はしばらく継続することが予想されています。
出勤を控えるような状況になっても、テレワーク・在宅勤務で仕事が滞りなく進められるように、早めにペーパーレスの対応を準備しておきたいところです。
また、たとえコロナ禍が収まったとしても、ペーパーレス化を進めておいて損はありません。
私のこれまでの業務改善の経験から申し上げますと、ペーパーレス化によって、事務作業時間が3分の1から10分の1以下に短縮する傾向にあります。
これまであたり前のように、紙とハンコを使ってきた仕事がなくなります。
紙の受け渡し時間や待ち時間も含めた、社内の事務処理時間が大幅に短縮されるのです。
それだけではありません。
御社のペーパーレス化が、取引企業の効率化にもつながります。
さらに、日本経済全体の生産性の向上に発展していくのです。
コロナ禍を転機に、企業間の労働生産性の格差が拡大すると言われています。
大企業を中心としたペーパーレス化を推進する企業は、業務効率が向上していきます。
それに対して、ペーパーレス化が遅れている中小企業は、紙の処理に時間を取られて業務効率が停滞したままです。
古い商慣習や仕事のやり方にしがみついていると取り残される、ということです。