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- 賢い社長の「経理財務の見どころ・勘どころ・ツッコミどころ」
- 第18回 営業利益・経常利益・純利益を見て経営を立て直す
会計事務所という職業柄、日常的に多くの企業の決算書を見ます。
この1年は、数字の傾向が例年とは大きく異なっています。
前期以前の数字と比較すると、何が変わったのかがハッキリとわかります。
すべての会社がコロナ禍の影響を受けていることを、数字が物語っているのです。
特に中小企業に対するインパクトは大きく、存続の危機に瀕するほど赤字に陥った会社も少なくありません。
そこで今回は、コロナ禍の影響を利益に着目して検証します。
3月決算の会社も多いので、決算前に今期の「営業利益」「経常利益」「純利益」の3つの数字を前期の数字と比較しながら見ておいてください。
それぞれの「利益」の数字の変化を確認しながら、今後の対策を検討していきましょう。
今期の営業利益・経常利益・純利益は、前期と比較していくら増減しましたか?
(1)「営業利益」のV字回復が最重要課題
最初に見る利益は、本業の儲けを示す「営業利益」です。
経理に依頼して、今期の期首からの累計の損益計算書と前期の同期間の損益計算書を対比させて出力してもらいます。
「売上高」から「売上原価」と「販売費及び一般管理費」を差し引いた「営業利益」の数字を比較します。
コロナ禍の影響により営業活動の自粛を余儀なくされた会社では、売上の減少がそのまま営業利益の数字に反映されています。
企業活動が制限されたために経費も減少していますが、固定費を賄いきれなかった会社は営業赤字が膨らんでいます。
人件費や家賃といった固定費の負担が大きい会社ほど、損益分岐点売上高(赤字にならないために最低限確保すべき売上高)を割り込んだ額だけ赤字が膨らみました。
前期の営業利益と比較すると、数字がプラスからマイナスに転じただけでなく、前期の営業利益の額の倍以上の営業損失になっている会社もあります。
赤字は免れた会社であっても、売上高営業利益率が落ち込んでいないでしょうか。
営業利益の金額との比率を検証して、収益構造の変化を認識してください。
このまま何もしなければ、売上が元に戻ることはないでしょう。
社長は役員報酬のカットをはじめ、あらゆる固定費の配分をゼロから検討して、本業の儲けの構造を作り直さなければなりません。
営業利益は、本業の稼ぎであるキャッシュフローの元になる数字です。
銀行は、御社の営業利益の数字を元に融資の枠を判定します。
M&Aのときには、御社の事業価値は営業利益をベースに値踏みされます。
何はともあれ、営業利益をV字回復させることが最重要課題です。
御社は営業利益を復元させるために、どんな手を打っていますか?
(2)補填がなくても「経常利益」をプラスに戻す
次に確認する利益は、会社の継続性を示す「経常利益」です。
「営業利益」から、雑収入や支払利息などの営業外の損益をプラス・マイナスした結果が「経常利益」です。
コロナ禍で売上が減少した会社は、給付金や助成金などの補填がありました。
2020年度は、持続化給付金、雇用調整助成金、家賃支援給付金、休業支援金などが営業外収入として計上されています。
営業損益は赤字でも、経常損益はなんとか黒字になったという会社は少なくありません。
銀行の融資担当者は経常利益を重要視します。
経常利益は、会社の存続可能性を表しているからです。
自力で経常利益を維持できる会社にしか、銀行は融資を継続してくれません。
したがって社長としては、たとえこの状況が続いて支援が得られない場合でも、経常利益をできるだけ早くプラスに戻さなければならないのです。
黒字で安心せずに、経常利益から給付金や助成金の支給額を差し引き、支援がなかった場合の経常利益の数字を算出します。
その結果、経常利益がマイナスになった場合は、経常赤字の数字がなくなるまで対策を書き出し、それぞれの対策で得られる金額を積み上げていきます。
借入金が増えている場合には、支払利息の増加分についても忘れずに対策します。
御社は、給付金や助成金をいくら受け取りましたか?
(3)食い潰した内部留保を「純利益」で穴埋めする
損益計算書の最後の利益が、税引き後の「純利益」です。
年間の純利益がプラスの場合は、純利益の金額が内部留保として、貸借対照表の自己資本に積み上がっていきます。
逆に、純利益がマイナスの場合は、過去に蓄積してきた内部留保が取り崩されます。
創業から地道に内部留保を蓄えてきた会社は、コロナ禍でも耐え忍ぶことができました。
一方で、自己資本が乏しい中小企業はすぐに経営危機に陥り、コロナ緊急融資に頼らざるを得ませんでした。
会社を存続するうえで、内部留保の蓄積が欠かせません。
自己資本を食い潰してしまった会社は、毎年少しずつ純利益を積み上げていくしかありません。
御社は、何年存続できる内部留保を蓄積してありますか?
●営業利益・経常利益・純利益の3つの利益を見て経営を再構築する
営業利益、経常利益、純利益の3つの利益は、経営状態の変化を端的に表しています。
コロナ禍で経営環境が大きく揺らいだこの1年は、経営体質の脆弱さが数字に顕著に出ました。
まずは営業利益、次に経常利益、最後に純利益の数字を前年と比較して、今後の対策を検討し、少しずつ回復させていきます。
(1)営業利益のダメージを修復して本業を立て直す
(2)経常利益を維持して自立した経営に戻す
(3)純利益を積み重ねて財務基盤を形成し直す
コロナ禍が終息するのをただ待っているだけでは、手遅れになります。
3つの利益の数字を検証して、一日も早く毀損した経営を再構築していきましょう。
御社は、今月中に利益改善策をいくつ実行しますか?