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税務・会計

第17回 財務数字を前年と比較して、次の手を打つ

賢い社長の「経理財務の見どころ・勘どころ・ツッコミどころ」

新型コロナウイルス感染症の流行拡大が始まり、約1年が経過しました。
この1年間で、生活様式や消費行動が大きく変わりました。
 
コロナ禍は、企業経営に大きな影響を及ぼしています。
コロナ禍を乗り越えるために、社長はさまざまな手を打ってきたことでしょう。
それぞれの対策の結果はどうだったでしょうか。
 
急激な変化に慌ただしく対応し、1年前のことでも意外と覚えていないのではないでしょうか。
試しに、思い出してみてください。
昨年3月末の会社の預金残高を覚えているでしょうか?
即答できる社長は少ないでしょう。
人間の記憶はあいまいなものです。
社長は定期的に会社の状況を数字で振り返り、成果を検証することが大切です。
 
そこで今回は、財務数字を前年と比較して「今後を見通すための3つの検証」をお伝えします。
過去1年間を振り返り、今後1年間を予測しながら、年度予算を軌道修正してください。
 
御社の業績は1年前と比べて、どのように変化しましたか?
 
 
①「売上の増減」と「売上トップ10の変動」を検証する
まず、今月の売上高を前年同月の数字と比較します。
経理に指示して、今月と前年同月の損益計算書を対比させて出力してもらいます。
売上高がいくら増減して、何%変動したかを見ます。
 
この1年間に実施した営業施策の数々が、成果として数字にどのように反映しているのかを検証します。
●どの対策が、いくらの増収につながったか?
●何もしなかったら、いくら減収したか?
 
原因を深掘りするために、売上高の内訳を1年前と比べます。
卸売業や製造業など、企業が取引対象の会社は、「得意先別の売上トップ10(販売額上位10社)のランキングと構成割合」を比較します。
大口の得意先の売上が減少した場合、1社に依存するリスクを回避する対策は進んでいるでしょうか。
 
小売業や飲食業など、消費者と直接取引する会社は、「商品別の売上トップ10(金額や個数上位10種類)」、または「インターネット販売とリアル店舗販売の比率」の変化を見ます。
売上の構成要素の変化をキャッチして、数字の増減が何を示しているのかを検討します。
顧客のニーズが変わった、売り方が変わったなど、さまざまな要因が考えられます。
社会経済情勢も1年前とは異なります。
周囲の状況の変化により、売上高も、その構成要素も変わるのは当然です。
キャッシュレス決済の影響も数字で検証してみてください。
 
御社の売上に、一番インパクトを与えたものは何ですか?
 
 
②「増えた経費」と「減った経費」を検証する
次に検証する数字は、損益計算書の中の経費科目です。
業種業態を問わず、どの会社もこの1年間で大きく減った経費は「旅費交通費」です。
人の移動が制限され、出張がなくなりました。
出勤者数を減らすよう要請されたため、テレワークや在宅勤務により「通勤手当」が減りました。
 
忘年会や新年会、歓送迎会、懇親会、パーティ、イベント等が、次々に中止または延期になりました。
会食の制限で「接待交際費」も減りました。
「接待交際費」が、前期と比べて半分どころか3分の1になった会社もあります。
 
一方で、増加傾向にあるのが「通信費」です。
テレワーク・在宅勤務で働く社員の業務環境を整え、コミュニケーションを図るための費用が発生しています。
取引先との電話やWeb会議も増えました。
ノートPCやタブレット端末、Web会議用の通信機器等を購入して「消耗品費」が増えた会社は多いでしょう。
 
また、コロナ禍が長引くにつれて浮上してきた問題が「給料手当」と「地代家賃」です。
営業自粛等により売上が減少しても、「人件費」と「家賃」は急には削れません。
雇用調整助成金や家賃支援給付金を使って、一時的に影響を抑えた会社は、これからの対策が必要です。
 
御社は今後、どの経費を増やして、どの経費を削減しますか?
 
 
③預金と借入金のバランスを検証する
最後に、貸借対照表についても、今月と前年同月とを見比べます。
資産と負債の勘定科目の中で、残高が大きく増減しているものがあれば、担当者に指示してその内容を必ず調べ、その後の取引の状況を検証しておきます。
 
貸借対照表の中でもっとも大事なのが、「現預金」の残高の変化です。
利益が増えた分だけ預金が積み上がったのであれば、まったく問題ありません。
そうではなく、コロナ対策の緊急融資で預金残高が増えた場合には、預金と借入金のバランスの変化を見ます。
銀行側から見たときの預貸率(銀行が預かっている預金と融資先への貸付金との比率)を、逆の立場から比べて見るのです。
 
通常は、借入金が増えた分と同程度の預金が増加しています。
しかし、過去1年間に借り入れた分を、赤字の補填や設備投資などに使ってしまい、すでに残っていない場合はリカバリー策が必要です。
今後1年間でどうやってキャッシュフローを確保して、返済資金に充てるのかを考えて、銀行に対して資金計画を説明できるようにしておいてください。
 
これから1年間の資金繰りの目処はたっていますか?
 
 
●社長は数字で検証して次の手を打つ
この激動の1年間、社長は会社を継続するために、いろいろな手を打ってきました。
その成果を数字でしっかりと検証してください。
 
①「売上の増減要因」や「売上トップ10」の変化の原因は何か?
②経費の使い方が、利益にどう影響したか?
③調達した資金の使い方に問題はなかったか?
 
成長する会社の社長は、景気やコロナ禍を結果の理由にしません。
必ず成果を数字で検証してその原因を分析評価し、次の手に活かしています。
忙しくても時間を確保して、経営を数字で振り返ってみてください。
改善案がいくつも浮かんでくるはずです。
将来のために取り組むべき課題が見えてきます。
 
この1年間の数字の動きを見て、次の1年にどのような手を打ちますか?
 
 

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