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戦略・戦術

第八十三話 「人を育てる職場づくり」—東京・大田区の町工場に学ぶ“人が辞めない組織”の実践戦略

中小企業の「1位づくり」戦略

こんにちは、1位づくり戦略コンサルタント 佐藤元相です。

「採用してもすぐ辞める」「人がなかなか育たない」
そんな悩みを持つ中小企業経営者の声を、私はこの数年で何度聞いてきたかわかりません。

働き方の価値観が多様化する現代。人材育成や定着の在り方も、大きく変化しています。
今回ご紹介するのは、東京都大田区にある町工場西尾硝子鏡工業所

同社は、女性社員比率43%、若手主体のプロジェクト推進、6年間離職者ゼロという、今の時代において非常に希少な実績を持つ企業です。

さらに、2025年には「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞(人を大切にする経営学会主催)にて、審査委員会特別賞を受賞。
その背景には、「人を信じ、任せる」という明快な理念と、他社にはない育成の仕組みがありました。

今回は、代表の西尾社長、そして後継者であるご子息とともにお話を伺い、「人を育てる職場づくり」の実像に迫りました。

 

「任せることで、人は育つ」

「社員は、信じて任せてみないと育たないんです」
そう語る西尾社長の言葉には、一切の迷いがありません。
社員に何かを任せるとき、「これをやって」と命令するのではなく、「君はどう思う?」「どう進めてみたい?」と問いかけ、自分の頭で考えさせる
その積み重ねが、社員の主体性と成長につながっているのです。

実際、同社では若手社員が中心となって複数のプロジェクトを動かしています。
社内業務の改善、新しい製品の試作、働き方の見直しなど、テーマは多岐に渡ります。

 

外部のプロ人材と連携する“越境プロジェクト”

西尾硝子鏡工業所のプロジェクトの最大の特徴は、外部の専門人材との協働です。

例えば、現在進行中の「DXプロジェクト」では、大手企業のITの専門性の高い現役社員が社外メンターとして参画しています。

社員とともに課題を洗い出し、業務のデジタル化・効率化に取り組んでいます。

「現場の課題にプロの視点が入ることで、解決策の質もスピードも段違いです。
そして何より、若手社員がプロ人材と対等に議論する姿に、私は可能性を感じています」

この言葉どおり、社内に閉じない“越境”の学びが、育成に大きなインパクトを与えています。

 

プレゼンで“自分の成長”を実感させる

プロジェクトの成果は、3か月に一度、社内でプレゼンテーションされます。
ここで社員は、自分たちの取り組みを全社員の前で報告します。
「人前で話すのが苦手だった社員が、発表を重ねるたびに表情や声のトーンが変わっていく。
その成長を見る瞬間が、経営者として一番うれしい時間です」と西尾社長。

また、プレゼンには外部パートナーも同席し、プロ目線でのフィードバックが入るため、社員は“学び直し”の機会も得られます。

 

「女性が安心して働ける環境づくり」は“誰もが働きやすい職場”につながる

現在、同社の女性社員比率は43%。製造業としては極めて高い水準です。

重い荷物は台車で運ぶ、作業台の高さを女性に合わせて調整する、勤務時間の柔軟性を高める。こうした細かな配慮を積み重ねた結果、6年間で離職者ゼロという実績を実現しています。

「女性に優しい職場は、男性にとっても働きやすい。結局は“人にやさしい”かどうかなんですよ」

西尾社長の言葉に、性別を超えた“人を大切にする”経営姿勢がにじみ出ていました。

 

「飲みニケーション」から“本音が出る食事会”へ

かつては、会社の人間関係づくりといえば「飲み会」が定番でした。
しかし同社では、飲みニケーションをやめたといいます。

その代わりに実施しているのが、少しリッチな食事会
以前の飲み会予算を活用し、落ち着いた雰囲気のレストランで、少人数で語り合う時間を設けています。
「かしこまらずに話せる場でこそ、社員の本音が聞けるんです。
無理に仲良くするのではなく、自然につながる。今の時代に合った距離感だと思っています」

 

育成の土台は「心理的安全性」

社員が育つには、挑戦できる空気が必要です。
その土台となるのが、心理的安全性です。

西尾硝子鏡工業所では、「提案には1週間以内に必ず返信する」というルールを設けています。
小さなアイデアでも、出した声が“なかったことにされない”仕組みがあるのです。

「否定されない」「失敗しても大丈夫」という空気があるからこそ、社員は自分の意見を出し、学び、成長できる。

これが、“辞めない職場”を支える真の強みとなっています。

 

採用活動も社員が主役

採用活動においても、若手社員が中心です。
会社紹介の動画やパンフレットも、社員が自ら制作しています。
「どんな後輩と働きたいか」を考えることで、自分の働き方を見つめ直すきっかけにもなり、
結果として採用そのものが育成の機会となっているのです。

 

人を信じ、任せることで会社は変わる

西尾硝子鏡工業所の取り組みは、決して複雑でも、大きな投資が必要なものでもありません。

• 若手に任せる勇気
• 外部とつながる姿勢
• 日々の対話を大切にする文化
• 安心して失敗できる空気
• 本音を交わせる関係性

この“当たり前”の積み重ねが、「辞めない、育つ」職場を形づくっているのです。

「人は、信じて、任せれば育つ。」
それを実践で証明しているのが、西尾硝子鏡工業所です。

今、あなたの会社では、誰を信じて、何を任せていますか?

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