あるオーストラリア人の経営者が、日本の企業を訪ねた際、
一万円札を両替しようと思い、受付の女の子(と呼びたいほど若かった)に頼んだ。
「かしこまりました」といって席を立った彼女が5分後に戻ってきた時、手に持っていたのは・・・・・・・・・
5000円札1枚、1000冊4枚、500円玉1枚、100円玉5枚であった。
くだんのオーストラリア人、ヒザを打って曰く、
「我、ここに、日本の“生産性”の真髄をみたり」と。
私も外国暮らしの経験があるので分かるのだが、
アメリカ人に同じことを頼んだら、おそらく1000円札を10枚持ってくるだろう。
訪問者は、こうした日本人の“気働き”に感心したと同時に、これを契機に大の日本びいきになってしまった。
だが、“気働き”というものは、何も日本人だけの専売特許ではない。
英語にも“Single Bagger”“Double Bagger”という言い方があるのだ。
アメリカのスーパーマーケットでは、客が買った品物をキャッシュレジスターのそばで袋に詰めることを
仕事にしている人 (=Bagger、バガー)がいる。仕事は非常に単調で、朝から晩まで“袋詰め”作業ばかり。
ところが、同じバガーでありながら、買い物客の立場を考えて、袋を二重にして破けないようにする人もいる。
それが “Double Bagger”である。
さらに、かさばる重たいものは袋の下へ、崩れやすい、あるいは壊れやすい品は上に入れる工夫。
客が年寄りならば、車まで品物を運ぶ思いやり。“思いや り”とは、心を相手に遣(や)ることである。
気働きは、何も日本人だけが秀でている気質なのではない。
仕事に対する取り組み方・ヤル気から、自然に発生するものだ。
自分に与えられた仕事を最小限片付けるのもひとつの生き方であるが、
もし違う生き方を望むなら、自分が今の仕事でどの程度ダ ブル・バガーたらんとしているのか、振り返ってみるのもよい。
人生はしょせん、ちょっとした「エクストラ・タッチ」の積み重ねとも云えよう。
一見、息の詰まるような単純作業に見えるスーパーの袋詰め作業にさえ、差が出てしまうのである。
ちょっとした、つまらない (ように見える)積み重ねが、その人の価値を高めていくのではないだろうか。
こんな簡単なコンセプトも分からない、分かろうともしない人に捧げるコトバ、
「バガー(Bagger)は死ななきゃ 直らない」
新 将命