転職者の意識と賃金の変化
では、実際の転職者はどのくらい賃金処遇について意識しているのでしょうか。
厚生労働省「令和2年転職者実態調査」によれば、自己都合によって直前の勤め先を辞めた転職者について、離職理由の上位5位を見ると次のようになります。(数字は、複数回答による。)
・労働条件(賃金以外)がよくなかったから …28.2%
・満足のいく仕事内容でなかったから …26.0%
・賃金が低かったから …23.8%
・会社の将来に不安を感じたから …23.3%
・人間関係がうまくいかなかったから …23.0%
賃金の低さは離職理由の第3位であり、労働時間など他の労働条件が優先されているようです。ただし、上位3つの要因は相互に影響を与えますし、明らかに賃金水準が世間相場よりも低く、将来の昇給の見通しも立たないという状況であれば、定着が望めないのは言うまでもありません。
では、実際に転職後の賃金はどう変化しているでしょうか。
同調査では、転職者全体のうち賃金が「増加した」のは39.0%、「減少した」が40.1%、変わらないが20.2%でした。賃金の増加と減少はきっ抗しているように見えますが、年齢階層別にみると、20歳~49歳では増加が減少を上回り、30~34歳では48.6%が「増加した」と回答しています。
若年層から中堅層では転職後の賃金が上昇傾向にあるだけでなく、労働時間も減少する傾向にあります。労働時間や賃金も含めた労働条件全般の改善を求めて転職するケースが多いことを示しています。
さて、採用する会社側からこうした転職活動を見ると、応募者に対して仕事内容や入社後の職務について丁寧に説明し、本人の能力や技能を活かせる仕事であることを正しく伝えることの重要さが改めて理解できます。もちろん、賃金や労働時間などの労働条件も納得できるものでなければならないのは言うまでもありません。合理的に説明できる賃金・人事制度を確立することは、優秀な中途採用者を獲得するうえでも重要な要素だということがわかります。
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今日の労働市場を大きく捉えれば、人材不足への対処法の基本スタンスは多様化の推進に他なりません。シニア社員の活躍推進と処遇改善、外国人労働者の活用、女性の活躍推進、パート社員の活性化等々、会社としては様々なアプローチが考えられますが、中途採用者の積極的な活用も有効な選択肢の1つです。
しかしながら、これまで安定的に新卒採用者を採り続けてきた会社の中には、プロパー社員が中途採用者をいつまでも“お客さん扱い”(悪く言えば“部外者扱い”)し、折角の改善提案や事業変革への芽を摘んでしまうケースも少なからずあるようです。経営者や人事担当者が中途採用者の“異能”を評価し、組織・事業変革への展開を期待して採用したとしても、現場がそれにブレーキをかけるようでは会社にとっても大きな損失だといえましょう。
経営者側、人事担当者サイドにも問題はあります。既存社員の心情に配慮してか、中途採用者の給与水準を「うちの業界は初めてで、知識もこれから身に着ける段階だから…」という理由で、既存社員より大幅に低い給与で採用している事例がまだまだ多いのです。
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