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税務・会計

第98号 不正摘発現場

会社を守り抜くための緊急対策

 上場企業の不正(不適切な会計処理と言います)の発覚が増えています。最近では東芝がそうです。
 日本の特徴なのかわかりませんが、1社が、それも有名な企業の不正が発覚したと発表されますと、あとから続々とカミングアウトしてきます。
 ですから、今後も、上場会社の不正のニュースが飛び込んでくるかもしれません。
 東芝もこれからお話しする「原価の付け替え」という不正が行われていたのかもしれません。
 工事原価の付け替えは、建設業や広告代理業などでは多く行われている不正です。
 建設工事などは、概算見積もりをして、一定の利益率を確保できる見通しのうえで受注をします。しかし、実行予算を組み、工事を実施していくうちに、その工事の原価が予算を超過し、かつ受注金額の増額ができない場合などは、利幅が縮小し、赤字となることもあります。
 建設業では、材料費や人件費の高騰で利益確保ができないプロジェクトが多くなっています。
 こうした場合に、下請業者への発注工事を別のプロジェクトの現場に付け替えて、工事原価を少なく計上することがあります。
 付け替えが決算期をまたいで行われた場合には、売上原価の過少計上となり、粉飾決算につながるのです。
 工事原価の付け替えを行いますと、多くの場合は同じ担当者や部門が管理している次のプロジェクトで架空の発注が行われることになります。同時並行でいくつもの工事がスタートしていない限り、その発注から支払いまでの期間は、通常に比べて短くなります。
 場合によっては、材料の納品や下請け工事の完了が異常に早く記録されるケースも出てきます。
 これらは、プロジェクトコードの取得日、受注日、下請工事等の発注日及び下請け業者等への支払日などをデータ監査ツールなどで網羅的に分析すると異常値が検出されることがあります。
 高度成長期や不動産バブルの時期であれば、原価の付け替えをしているうちに「利益に余裕のあるプロジェクト」に遭遇して、目立たない形で処理できたケースも多かったのですが、低成長期や長期の景気低迷の局面では、しばしば架空工事の受注・売上計上という形で処理されることになります。
 この場合には、完成工事未収入金(通常の売掛金)が長期にわたって未回収となり、貸倒れ等により、最終的に処理されることになります。
 上場していない中小企業では、原価の付け替えは、当然のように行っているようですが、上場企業の場合、これは虚偽表示となり、大きなツケを払わなければなりません。
 ただでさえ、上場すれば、証券取引所や会計士に対するコストがかかるのに、粉飾決算をすれば、証券取引所から多額の課徴金が課せられ、上場廃止にまで進んでいくことになります。
 ところで、一般的に不正には、決算書等の改ざんを行う不正と横領があります。
 横領は社内で発見することもありますが、決算書等の改ざんの不正は経営者が絡んでいることもあり、国税などの公権力による調査で発見されない限り、なかなか表に出てきません。
 私は会計士ですが、一度、30年前に、監査の世界から足を洗いました。理由は、帳簿を眺めているだけでは、不正など発見できないからです。
 さらに、会計士の監査は不正を発見するものではないと先輩会計士から言われたことが監査から手を引くことを決心させてくれました。
 「監査は60歳を過ぎてからやる仕事だ」と言い残して。
 追い打ちをかけるように、ある大手証券会社の経営者から、「監査なんて法律がなければ受けない」「監査は生産性がないからやめた方がいい」と言われ、また、旧大蔵省の幹部の講演で、「弁護士や検事、刑事のテレビはあっても、会計士のドラマはありませんね。まあ、ドラマ性がないからでしょう」と言われ、会計士試験に合格し、不正を発見して企業を正しい方向に導きたいという使命感は、もろくも砕け散ってしまったわけです。
 たしかに、会社が作成した帳簿と証憑(請求書、領収書、契約書など第三者が作成した書類)を突合せることが監査手続きの基本であることはわかりますが、不正を働いている会社は当然のように、証憑を改ざんしてでも行うものです。
 そのようなこともあり、3年間で監査の世界から足を洗い、実業の世界に進んだのです。
 それから、30年が過ぎ、その間、10年間は中小企業の横領や不正の発見の仕事が年に4から5件程度あったので、細々と続けていました。
 どうして、中小企業の不正等の発見の依頼があるのか不思議に思う方もいるでしょう
 実は、私も不思議でした。
 不正と横領のうち、従業員の横領は、経営者からの発見依頼があることは容易に予想がつきますし、実際、よくあります。
 しかし、不正は経営者が絡んでいるため、経営者自ら、カミングアウトすることはなかなか考えられません。
 私に依頼があるのは、いわゆる資本家、つまり金融機関または投資家です。
 資金投入先の決算が不透明であれば、そこに資金投入はリスクが大き過ぎるからです。
 いくら、「人を見てお金を出す」といっても、決算書に不正があれば、それは困難です。
 それが不正の依頼の理由です。

 

 

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