シリコンバレー視察で3回目の訪問となったミッション・バーンズ社に行った。
ここはブタのお腹の部分(ポークベリー)の細胞を採取して培養した代替肉を作っているベンチャー企業で、この技術を使ったベーコン、ミートボール、ソーセージを生産する用意ができており、FDA(Food and Drug Administration=アメリカ食品医薬品局)の認可が降りれば3ヶ月以内に販売できるとのことだった。
代替肉市場は大豆などを原料にした植物由来の商品が既にいろいろ販売されており、世界の市場規模は2017年の28億ドルから2022年に61億ドルと5年間で2.2倍となったが、その後はアメリカで2022年の売上が前年比1%減少、販売個数も8%減少するなど勢いが鈍化している。
2022年のアンケートで、植物肉の購入に至らない理由として51%の消費者が「味」を挙げているが、ミッション・バーンズは「霜降り和牛肉は脂肪の美味しさ」のように、「肉の味は脂肪分」と考えて、脂肪部分に特化して培養する研究を進めてきた。
今回の視察では、脂肪部分が培養肉、赤身部分が植物由来のハイブリッド製品である培養肉ベーコンのBLTサンドとマリナラソースで味付けしたミートボールを試食したが、日本で買えるようになったら食べたいと思えるほどの味になっていた。
培養を脂肪に特化することで早く育成でき、アミノ酸(赤身部分)を培養する必要がないので安価にできるという。
また、ビーガン(動物性食品を一切口にしない人、アメリカ人の3.5%)やベジタリアン(菜食主義者)、イスラム教徒などは対象外になるが、世界一消費されているブタ肉から始める方針という。
技術的には効率が良いバイオリアクター(培養器)とMedia(栄養素)が鍵となるが、2024〜26年は大きな工場を建設してコストを低減、国際的な販売を目指している。
現在32歳のEitan Fischer社長は5年前に科学者3人で創業、FDAの認可が取れた後は全米展開してブランドを確立したいと話していた。
■タンパク質危機
世界人口は1950年の25億人から1986年に50億人へと倍増し、2022年に80億人、今後は100億人まで増加するとされている。
FAO(国際連合食糧農業機関)によれば、1961年から2011年までの50年間で世界人口は2.3倍増だが、動物性食品の消費は5倍に増加しており、2050年までにさらに73%増えるだろうと予測、「タンパク質危機」という言葉も使われ始めている。
「タンパク質危機」とは、牛などの家畜飼育は飼料の育成も含めて土地や水が大量に必要となるため、人口の増加や肉食化に伴い、タンパク質の供給が需要をまかなえなくなるという予測だ。
最近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大により、植物由来代替肉に使用する大豆、エンドウ豆などが手に入りにくくなったし、飼料用穀物のトウモロコシの生産ではロシア産、ウクライナ産の合計が世界の20%を占めているため、ウクライナ戦争による影響も懸念されている。
美味しさの追求、栄養バランスなども考えると、培養肉と植物由来のハイブリッド代替肉は「タンパク質危機」を回避する有効な方法かも知れない。
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●mission Barns(ミッション・バーンズ)
https://missionbarns.com