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採用・法律

第38回 『その対応は、マタハラです!』

中小企業の新たな法律リスク

近年、国は事業者に対し、一層のハラスメント対策を求めるようになりました。事業者としても人材確保の観点から各種のハラスメント対策を行い、「働きやすい職場環境」を作ることが業績向上に寄与するものと考えられます。
ホテル業を営む石山社長は、出産、子育てを経験する女性従業員も多いことから、いわゆる「マタハラ」に関する問題について、賛多弁護士に相談に来ました。
 
* * *
 
石山社長:当社は、女性従業員が多いので、「マタハラ」と言われてしまうような対応をとらないよう注意をしています。実際、私どものどのような対応が「マタハラ」に当たってしまうのでしょうか。
 
賛多弁護士:法律上、「マタハラ」の定義はありませんが、事業者は、従業員が妊娠、出産、産前・産後休業の取得、育児休業の取得等を理由として、解雇や雇止め、降格、減給、不利益な配置変更、人事考課等の不利益な取扱いをすることが禁止されています。そのため、このような不利益な取扱いをした場合には、「マタハラ」と言われてしまうでしょう。
 
石山社長:なるほど。妊娠、出産等を理由として何らかの人事上の不利益を与えれば、「マタハラ」と言われかねないということですね。当社では育児休業期間中は別の従業員がその従業員に代わって業務を行うことになります。そのため、復職後もすぐに同じ業務に就いてもらうことが難しいことがあります。そこで、そのような場合、当社では、育児休業をする従業員から、復職後は役職や業務内容を変更することについて同意する旨の書面の提出を受けています。従業員自身が同意していますので、不利益な取扱いには当たらないと考えています。
 
賛多弁護士:いいえ。それは違法になってしまう可能性がありますね。
 
石山社長:従業員がそのような取扱いを受けることについて同意していても、法律の禁止する不利益な取扱いに当たってしまうのでしょうか。
 
賛多弁護士:確かに、従業員が同意をしている場合には、法律の禁止する不利益な取扱いに当たらないこともあります。しかし、従業員が単に形式的に同意しているというだけではだめです。事業者は、従業員に対してそのような取扱いを行うことで生じる影響について適切に説明を行い、従業員に真に納得してもらう必要があります。例えば、役職や業務内容の変更によりそれまで支給されていた手当が支給されなくなったり、減給となるのであればその点を明らかにして説明をする必要があります。また、従業員にとって一方的に不利になるような取扱いでは、従業員が真に納得していたとは言い難いでしょう。例えば、役職を変更するのであれば、従業員の意向に沿って業務量を軽減したり、業務内容を変更するなど、従業員にとって有利となる面があることも必要になるでしょう。
 
石山社長:なるほど、単に同意書を従業員に渡して「サインしておいて」では全くだめだということですね。
 
賛多弁護士:その通りです。従業員が同意することが自然といえるような客観的な事情が必要になります。
 
石山社長:分かりました。ところで、単に本人の能力不足等を理由として人事上の不利益を与えたところ、それがたまたま育児休業からの復職直後であったような場合、マタハラの問題になるのでしょうか。
 
賛多弁護士:実務上は、妊娠、出産、育児休業等の終了から1年以内の人事上の不利益は、原則として、法律の禁止する不利益な扱いに当たると考えられています。したがって、真実、本人の能力不足等が理由になっているのであれば、事業者としてはそのことを裏付ける客観的な資料を整える必要があります。なお、育児休業からの復職直後の能力不足等を理由とした場合、それが妊娠、出産に起因して生じたものであれば、結局は、妊娠、出産等を理由にして不利益を与えたことになりますから違法になると考えられます。
 
石山社長:なるほど、何らかの人事上の不利益を与えた場合、それが妊娠、出産等を理由とするものかどうかはっきりとしないこともあるため、実務上は、1年という期間である程度、判断できるようにしたということですね。従業員からマタハラなどと言われないよう、今後もその対応に十分注意したいと思います。
 
 
* * *
 
 妊娠、出産等を理由として何らかの人事上の不利益を与えれば、原則として、法律の禁止する不利益な取扱いとなります。判例上、その例外として、業務上の必要性からそのような不利益取扱いを行わざるを得ない場合、労働者がそのような不利益取扱いに同意している場合が挙げられていますが(最高裁平成26年10月23日判決)、あくまで例外にとどまるため、事業者としてはこのような事情が仮にあったとしても慎重に対応する必要があります。また、どのような場合に妊娠、出産等を「理由として」不利益な取扱いがされたといえるかについて、厚労省の「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A」では、原則として、妊娠・出産・育休等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は、妊娠、出産等を「理由として」行われたものと判断する旨述べられています。そのため、事業者としては他の理由でこの間に人事上の不利益を与える場合には、妊娠、出産等が理由ではないことを積極的に立証する必要があります。
 参考資料:厚労省「男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法の解釈通達」
厚労省「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A」
 
 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田 重則

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