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税務・会計

第21号 損益計算書で賃上げを考えてはいけない

会社を守り抜くための緊急対策

 アベノミクスは中小企業にプラスになっているのでしょうか。円安のため、仕入原価が増加し、利益が出ない中小企業も増えてきました。

◆アベノミクスのシナリオ
 理想的なシナリオは・・・
 『デフレ対策におけるアナウンスメント効果→円高修正(円安誘導)・株価上昇→輸出企業の利益増加→雇用拡大・所得増加→消費拡大・インフレ期待の高まり→物価上昇(インフレ率2%へ向けて)→内需産業の利益増加→本格的な景気回復』だと言われています。
 逆に最悪のシナリオは・・・
 『デフレ対策におけるアナウンスメント効果→円高修正(円安誘導)(←ここまでは達成済み)→補正予算のために大量の国債を発行→消費税増税による景気減速・税収減→財政規律の悪化による国債&円の信認低下→国債価格の下落&過度な円安→経済再生失敗&食料品・資源価格の上昇→不況であるにも関わらず物価が上がり続ける状態(スタグフレーション)』だと言われています。
 理想なシナリオのポイントは、所得増加、つまり賃上げです。

◆損益計算書で賃上げを決定してはいけない
 賃上げは、会社が豊かになって初めて可能になります。利益が上がったからと言って賃上げをしたらどうなるでしょうか。
 賃上げは、一か月で終わりではなく、一度、賃上げしますと、人件費は継続的に増加することになります。今、利益があるからと言って、将来はわかりません。この賃上げによって、利益が吹っ飛ぶことも考えられます。
 ですから、損益計算書だけで賃上げの意思決定をしてはいけないのです。
 豊かさはバランスシートに表れます。賃上げをして、継続的に人件費が増加しても財務的に持ちこたえることを判断できる指標はバランスシートなのです。この場合、会社のバランスシートが良くない場合でも、社長のバランスシートの状態が良く、連結バランスシートが豊かであれば、賃上げは可能になります。

◆その時、中小企業はどうすべきか
 アベノミクスやオリンピックで景気が持ち直し、中小企業も受注が増える可能性はあります。
 景気が上向いて仕事が増えますと、中小企業はなけなしの資金をはたいて材料を仕入れ、仕事をこなします。しかし、製品を納入しても売り上げが支払われるのは数カ月後。その間の資金繰りを補おうと、銀行に新規の融資を申し込んでも、応じてくれるとは限りません。
 この点は本当に注意すべきです。
 景気に関係なく、金融機関は『債務者区分』という格付けで融資を判断します。格付けが高い会社には貸し出しを増やし、低いところには減らすという姿勢を崩すことはありません。中小企業の売り上げが伸びても、それが一過性のものか、会社の商品力や技術力が実を結び始めたのか、金融機関はその判断ができないからです。
 だからこそ、借りる側に、きちんとした説明が必要になってきます。
 公共工事の発注で、これから建設業を中心に売り上げが増えていくことは考えられます。しかし、そのときに融資の要請が通るのかどうか。金融機関が適切な見極めをできなければ、膨大な企業が倒産していくかもしれません。
 それに加えて、中小企業の借金に対し返済を猶予するよう求めてきた中小企業金融円滑化法が、平成25年3月末で期限切れを迎えたことは要注意です。
 銀行の逆襲が始まるのはこれからです。平成25年1月から8月まで、倒産件数が減少したのは、消費税増税の時期が決まる前は、銀行は動けなかったのです。動けば、つまり、貸金の引揚げを行えば、倒産件数が増加し、景気指標が悪化し消費税増税の決定ができないからです。静かな銀行が牙をむいてくるのはこれからです。

◆内需型企業について
 円安等の影響で、物価が徐々にしかし確実に上がり始めています。ガソリン、軽油、灯油が上昇した他、輸入小麦の売り渡し価格が上がるため、今後、パンやパスタを始めとした小麦製品は軒並み値上がりします。
 極めつけは電気・ガス料金の値上げです。これは原発に代わり、電力エネルギーとして石油・天然ガスへの依存度が高まっている中、円安で輸入価格が跳ね上がったことを受け、日本各地の電力会社が国に電力料金の値上げを申請したためです。
 最も打撃を受けるのはいつも内需型の中小企業です。
 円安のために小麦をはじめ輸入食材が値上がりし、惣菜を作るコスト負担が増えているにもかかわらず、その分を価格転嫁できない会社もあります。こういった会社は納入先のスーパーに「うちは値上げをしないので」と言われ、今後電力料金が上がる見込みもある中、コスト増分に関しては、自社で呑みこまなければならなくなってしまうのです。
 アベノミクスで外需型大企業は利益を上げている一方で、このような内需型中小企業は円安のために原材料のコストが上がり苦しんでいます。日本の9割以上は中小企業であり、そのうち、内需型が大多数なのです。つまり、アベノミクスは日本で大多数を占める中小企業にとっては希望どころか負の影響をもたらす可能性が高くなるかもしれません。
 やはり、中小企業は誰も守ってはくれません。
 現在の円安も株高も、実体経済を伴わないマネーゲームなのです。実体経済を動かすにはアベノミクス三本目の矢=「成長戦略」を一刻も早く放つ必要がありますがその中身が正直、不透明です。
 企業に投資を促し、消費者に希望を与える内容であることを期待したいものです。
 そのためにも東京オリンピックは明るい材料になるかもしれません。
 大切なことは、今、中小企業の現場で、また目の前で実際に起こっている事実であり、新聞やマスコミの報道内容ではないことに気付くべきです。
 次回から、消費税増税に対して、どのような対策をすべきかを考えていきます。

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