6 ほめ方にも工夫がある
ところで、職場のポジティブ感情を広げることを目的とするなら、上司個人のやり方に任せておくべきではありません。
上司の仕事の中に、部下をよく観察し、承認するポイントを探して、実際に言葉にしてそれをしっかり伝えることまで、組み込んでしまうことが重要です。そのための優れた手法が1オン1ミーティングやコーチングです。よい経営を目指す企業で、ウェルビーイングのためのコーチング導入が進んでいることは、とてもうなずけることです。
そのほか、毎回の会議の最後に、参加者が他の参加者1人を必ずほめる時間を設けるという方法もあります。褒める相手は偏らないようにすれば誰でも構いません。自分の上司でも構いません。なぜその人を褒めるのか、理由も挙げて積極的にほめ合うことを、会議の一部に組み込んでしまうわけです。
ほめることによる生産性の向上の効果は、上記のデータが示す通り。ならば、ほめることを仕事の一部に組み込む方が、合理的ですよね。そうやって、互いに褒めることが仕事の一部となることで、確実に、会社全体にポジティブ感情が広がります。これはとても大切なことであり、それによってポジティブ感情がその会社全体の感情となり、その習慣とともに、会社の文化となって大きく広まっていくのです。
ウェルビーイングコーチングを取り入れる、会議の際にほめ合う時間を設定する、そうした取り組みは、経営者が舵を取ってしっかりと進めていく価値があるものです。
7 ほめられた人だけでないポジティブ感情の効果
ちなみに、褒めによるポジティブ感情の上昇効果は褒められた人にだけにとどまりません。人は、自分以外の人が、互いに優しい行為を行っているのを見るだけでポジティブな感情が湧きあがるのです。皆さんも、街角で誰かが誰かに手を差し伸べている姿を見て、心があたたかく明るくなった経験があるのではないでしょうか。
そして、実は、褒めた側の人物にも、ポジティブな感情が生まれます。実際に、相手をほめるワークをやってみると、ほめられた側だけでなく、ほめた側の感情が大きくポジティブに変換し、高揚することがわかります。これこそ、幸福なポジティブ感情の相互循環であり、これが社内で継続することで、組織全体にポジティブ感情が増幅されていくのです。
まさに、幸福な職場への転換です。
8 幸福優位な職場をデザインしよう
組織とは、同じ目的をもつ人間の集まりです。そして、数ある経営資源のうち、人間の最大の特徴は感情を持つことです。人が感情から受ける影響は圧倒的で、それを置き去りにして生きることはできない生き物です。つまり、人の集まりである組織を高めたいなら、ポジティブ感情に本気で取り組むこと、そのためにウェルビーイングコーチングを経営層が学んだり、会議の時間設計をデザインしていくことは、高い効果をもたらします。
みなさんの会社でもさまざまな仕組みを取り入れて、組織感情と事業の成長にどんな変化が起きるか、実証してみてください。
なお、その時には、みなさんご自身が、明るい表情やほめなどの声がけを大事にして、ポジティブ感情をどんどん発信することも、ぜひお忘れなく。確実に、ウェルビーイング経営のための循環が生まれていくはずです。