本当に儲かっている1割の会社には、必ず値決めの仕組みがある。
今回のトップインタビューでは、“原価と値決め”にメスを入れ、短期間に業績を向上させることで定評のある、収益改善コンサルタントの西田順生先生に、値決めの重要性についてお話をうかがいました。
■西田順生(にしだ じゅんせい)氏
㈱西田経営技術士事務所代表取締役
粗利2倍は当たり前、利益を飛躍的に伸ばす収益改善コンサルタント。㈱村田製作所グループ会社及び、㈱ナナオ(現EIZO)にて生産管理、外注管理、購買、営業管理等を担当、利益向上に貢献する。1996年独立、コンサルタントとして指導会社の業績アップに心血をそそぐ。2006年、試行錯誤の末、原価計算と値決めをベースにした利益直結の「収益改善プログラム(IPP)」を開発。たった1年で、営業利益が3.1倍になった会社、赤字から一転急浮上した会社、数億円相当の社内埋蔵金発掘に成功した会社など、30数社を増益へ導く。現在、製造業のみならず、建設業、商社、卸、整備業等の指導に全国を飛び回っている。西田経営技術士事務所 代表取締役。
Q:経営コンサルタントして“原価と値決め”に注目されたのはなぜでしょうか?
私は1998年にコンサルタントとして独立したあと、しばらくのあいだモノづくりの現場の改善指導をおこなっていました。
しかし、現場改善をやっても思うように顧問先様の利益を上げることができず、コンサルタントとして模索する日々が続いていました。
それがある事件をきっかけに、指導の軸足を大きく変えることになったのです。
それについては、『値決め経営』の中にも書きましたが、ある会社で半年かけて工程改善をおこない、2円のコストダウンに成功したときのことです。
ほっとしたのも束の間、その半年のあいだに、その製品の売価が12円値下がりしていたのです。半年かかって苦労して実現した2円のコストダウンが水の泡に。
当然、その会社の営業マンに値段が下がった理由を訊ねました。彼いわく「お客様の定期の値下げ要求で指値されたので、値下げしました。なにか問題がありますか?」というニュアンスの返事でした。
納得できない私はさらに、役員・幹部の人たちに「どのように値決めをしているのか」と訊ねたところ、昭和30~40年代に作られた古い原価の資料をもとに原価計算をし、見積書を出しているとのことでした。
さらに見積りを出しても、最終的にはお客さまの指値で受注することが多いという実態もわかったのです。
私は愕然としました。私自身は値決めのルールがきちんとある、すごく儲かっているメーカーで仕事をしてきたので、ある程度の会社であれば、原価と値決めの仕組みがあるものと思い込んでいたのです。しかし実際はまったく違っていました。
この出来事があって以来、指導の軸足を、利益に直結する“原価と値決め”に大きくシフトさせていったのです。
Q:西田先生が手塩にかけて開発された「収益改善プログラム/IPP」とは、簡潔にいうと、どのような内容ですか?
ひと言でいえば、値決めをする前に、原価計算をしっかりやって、会社として儲かる値決めのルールをつくる。
次に、定期的に収益改善会議をおこなって、ピンポイントで問題のある所を全員で改善をする、というものです。
具体的には、「収益改善プログラム」には、柱として5つのプログラムがあります。
1.「標準原価計算プログラム」
――正確な原価を見積る。
2.「値決めプログラム」
――儲かる値決めをする。
3.「実績原価計算プログラム」
――実績原価を計算して、標準原価内に収めたり、原価差異分析をしたりする。
4.「コストダウンプログラム」
――標準原価自身を下げる。
5.「収益改善会議プログラム」
――上記の1から4の仕組みはうまく回っているかを、定期的に運用チェックをする。
これら5つのプログラムで、収益改善の好循環を全社員で生み出していくのです。
Q:「値決め経営」で「収益改善プログラム/IPP」の全貌をはじめて公開されましたが、その理由は何ですか?
「収益改善プログラム(IPP)」を開発して10年がたちました(取材時)。指導先に導入して、たった1年で営業利益率が3.1倍になった会社や、赤字から一転して急浮上した会社、あるいは数億円相当の社内埋蔵金を発掘した会社など、30数社が増益となりました。
そのような利益効果を、指導先も私も実感するようになって、もっと多くの経営者に知ってもらいたいと思ったのです。
なぜなら、原価と値決めにフォーカスすれば、もっと儲かるからです。
というのは、現実には品質と納期に追われて、肝心かなめの原価計算と値決めに力を注いでいない会社がものすごく多い。
当然のことですが、経営者が原価と値決めに力を入れなければ、その下で働く幹部社員も同じように力を入れません。
結果的に全社をあげて、品質と納期だけを追っかけている会社がとても多いのです。
私が「品質を上げて、納期を守って、汗水たらして血まなこになって、結果として、その商売でいくら儲かるのですか?」と聞いても、社長も営業マンも正確に答えられない。
経営者にはもっとモノをつくる前の“原価と売価”に注目していただきたいと思います。結果にすぎない決算書の数字だけを見ていても儲からないのです。
もう一度、商売の基本方程式、利益=(売価-原価)×数量、の意味をよく理解していただきたいと思います。
そういう思いで、今回「収益改善プログラム(IPP)」の全貌を公開しました。
(聞き手/岡田万里)
「愛読者通信」(2014年10月発行)掲載