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愛読者通信

「中小企業がゼロから新規ビジネスの事業プランを生み出すには」
酒井 英之氏(V字経営研究所 代表)

「愛読者通信」著者インタビュー

「経営課題の解決」と「次世代経営チーム育成」を同時に達成する〈チームV字経営〉の創始者、酒井先生から、中小企業がゼロから新規ビジネスをおこす方法について寄稿いただきました。

酒井 英之(さかい ひでゆき)氏
V字経営研究所代表、〈チームV字経営〉創始者
慶應義塾大学経済学部卒業後、ブラザー工業に入社。ミシン事業に代わる新事業が不振の中、 「起死回生の商品を作れ」という特命を受ける。若手メンバーのみでラベルライター「P-touch(ピータッチ)」を考案。全米でシェア60%を超える大ヒット商品へと成長し、ブラザーがミシンメーカーから情報機器メーカーへと大きく飛躍する一翼を担う。その後、大手金融系シンクタンク の経営戦略部長兼プリンシパルを経て、2014年、「次世代のリーダーを育てて百年企業への成長をガイドする」をミッションにV字経営研究所を設立。先代が超えられなかった壁を打ち破り、最高益を達成する後継チームを多数輩出している。蔭で人を支える「人生送りバント」をモットーに、現場に深く入り込んで粘り強く指導する姿勢に、経営者、後継者、幹部社員のなかに強烈なファンがいる。

 

 サッカー日本代表、W杯では大活躍でしたね。ドイツ、スペインという強豪国と同じグループでまさかのトップ通過。この歴史的快挙に、選手には感謝しかありません。

 

 コロナになって3年、今、新たな歴史創りに挑む会社が増えています。先日、某社の新規ビジネス開発コンサルティングが終わりました。同社は社員数100人未満のガス供給会社です。その中から10人のメンバーが選ばれ、新規ビジネスの事業プランをゼロから考えるのです。

 

 ミーティングの頻度は月に1回で計8回。前半はアイデアを出すことに時間を使い、後半はアイデアを絞り込み、事業プランに進化させていきます。

 

 今回は、最終的に4つの事業プランが示されました。どれも魅力的で、メンバーはもちろん、社長以下皆さんに喜んでいただきました。

 

 私の指導方針は、「講師は、教えない」です。新規ビジネスの立ち上げは、大変難しい仕事のひとつです。その難局を乗り切るには、担当者自身の高いモチベーションが必要です

 

 誰かに言われてやるのであれば、仮にそれがよく儲かる事業案だったとしても、

「こんなの出きっこないよ。なんで俺がこんなことやらなきゃいけならないの?」

と考え、途中で放り出してしまうでしょう。

 

 一方、自分で考えたプランなら、

「このプランを考えたのは自分だ。だから自分が絶対にやるんだ」

と、我慢と頑張りが効きます。そのために自分たちで考えてもらうのです。

 

 また、一度自分でプランを生み出した経験があればそれが自信となり、次は講師不在でもプランを創出できます。その自信をつくるためにも、講師は何も言わない方が良いのです。

 

 とはいえ、日常業務で忙しいメンバーに

「新規ビジネスを考えてください!」

と言ったところで、アイデアは簡単には出てきません。

 

 そこで、今回はいくつもの仕掛けをしました。

 

 一つ目は、この仕事のミッションステートメントを作ったことです。メンバーの皆さんには、慣れない仕事に挑んでもらうのです。

「なぜ新規事業に取り組むのか」

「なぜ自分がやらなきゃいけないのか」

そのようなネガティブな気持ちが生まれて当然です。

 

 そこで以下のようなミッションステートメントを作り、毎回のミーティングの最初に読み合わせをしました。

 

 「ガスのその先へ 電気もガスも自由に選べる時代、私たちにしか出来ないことは何だろう。その答えはきっと、私たちの中にある。誰よりもお客様を回り、誰よりも親身になって、誰よりも役に立ってきた。日々の生活の中で、困っていること、悩んでいることを一番知っているのは、私たちだからくらしを丁寧に見つめると、毎日あったら喜ばれるサービスは、まだまだたくさんあると思うから。お客様と話をしよう、アイデアを出そう、カタチにしよう。さあ行こう。ガスのその先へ。」

 

 作ってくれたのは、同社に顧問のように長年深くかかわっている、日本経営合理化協会のディレクターの三木さんです。同社をすぐそばでサポートしている三木さんだからこそ、メンバーの心に響くミッションステートメントができました。

 

 二つ目は、刺激を求めて2種類の見学会を実施したことです。

 

 ひとつは、東京ビッグサイトへの訪問です。ビッグサイトでは、毎週のように様々な展示会が開かれています。その展示会にメンバーが2人1組で、代わる代わる見学に行きました。

 

 展示会が行われる業界は、成長産業です。少しでも自社に関連のありそうな展示会を見学し、自社に応用できそうなネタを拾ってくるのです。仮に空振りに終わっても、それはそれで学びです。

 

 もうひとつは、3つの企業を見学したことです。見学先は、同社と同じような強い地元愛を持ち、本業+新規ビジネスで成功している会社で、すべて上記の三木さんがコーディネートしてくれました。

 

 見学先では、社長から新規ビジネス立ち上げの苦労話と、それが会社にもたらした効果を語ってもらいました。成功事例を知識として理解するだけでなく、ナマ体験できたことは、メンバーに大きな刺激になりました。

 

 三つ目は、「10倍スケールで考える」を実施したことです。皆が考えたアイデアのうち、共感を得た数件を選び、そのスケールを10倍して考えるとどうなるかを全員で考えるのです

 

 売上は「客数×客単価×購入頻度」で表されます。そこで、

「客数を10倍にするとしたら?」

「客単価を10倍にするとしたら?」

「購入頻度を10倍になるとしたら?」

と問い、アイデアをより魅力的なものに改善していくのです。

 

 すると、アイデアがポケモンのキャラのように進化し、大きくパワフルなものへと変貌するのです。

 

 以上がプラン開発のプロセス上の工夫です。

 

 …が、今回はもうひとつ、社長がメンバーの為に用意した仕掛けがありました。最終プランの発表会に、地元の信金の担当者を2名、招待したのです。

 

 その狙いは、

「金融機関から見て魅力的なプランかどうか?」

「事業立ち上げに、補助金申請を手伝っていただけるかどうか?」

「土地を借りたいには、適地を紹介いただけるか?」

を問いかけるためです。

 

 この仕掛けには、社長の新規ビジネスプランに賭ける強い想いが現れていました。

 

 こうして生まれた新規ビジネスのプランは、当初全く想定しなかったものばかりで、私は大変驚きました。

 

 当事者意識の高いメンバーが、一つのアイデアに自社の強みと地域での存在価値を加味し、未来を描いていく底力に感動しました。

 

 そして、新規ビジネスは社員が持っている潜在能力を引き出し開花させる力があるのだと、改めて気づきました。

 

 コロナ禍になって、早3年。どの業種でも規模を問わず、変化が加速度的に進んでいます。変化を追うのでなく自分たちから変わる。それができる会社と、そうでない会社の差はどんどん開いていきます。

 

 あなたの会社は、新たな歴史創りに挑んでいますか?社員の潜在能力を武器に、新しい景色を見てはいかがでしょうか?

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