経営の最前線であるウェルビーイング経営ですが、実は、ポジティブ心理学や組織論など、さまざまな理論や研究に裏打ちされています。今日は、ポジティブ心理学の観点から、ウェルビーイング経営のカギとなるポジティブ感情について、小さな実践方法のご紹介も併せてお伝えします。ウェルビーイング経営の導入にぜひ役立ててみてください。
1 経営者の仕事は幸福な職場を作ること
ウェルビーイング経営によって会社を発展させるためには、何よりも、従業員が意欲をもって、心身ともに健康に働ける会社を作ることが何よりも重要です。
このことについて、ポジティブ心理学の第一人者のひとりであり、ハーバード大学で最も人気のあるポジティブ心理学の講座も担当するショーン・エイカーは、経営者の仕事は、幸福な職場を作ることだと端的に言い切っています。
幸福な職場と言うと、みんながぬるま湯で暮らしているような、ゆるいイメージを想像する人もいるかもしれませんが、それは正しくありません。幸福な職場では、従業員がイキイキして、いかにこの会社を良くするか、いかにお客様の役にたつか、どうやったらメンバー同士で助け合って仕事ができるか、さらには、その事業が社会にどんなインパクトをもたらすか、そんなことを自然と語り、協力しながら熱心に働いていることが知られています。言い換えれば、ここで働くのが楽しい!という思いであふれている場所、それこそが幸福な職場です。この職場の雰囲気が、高い生産性やスピード感のある対応を生みます。また、ミスや不正行為、そして、メンタルダウンによる休職などのネガティブなものは次第に減っていきます。このような、幸福な職場の効果は、さまざまな研究から明らかになっています。
2 幸福の職場とそうでない職場を分けるもの―ポジティブ感情の多さ―
では、幸福な職場のベースになるものは何でしょうか。言い換えると、幸福な職場と、そうでない職場とは、何が違うのでしょうか?
幸福な職場とそうでない職場を分けるもの、それが実は「ポジティブ感情」なのです。
ポジティブ感情とは、人の心に沸き起こる、信頼感、喜び、うれしさ、楽しさ、安心感、尊敬心などの、ポジティブな感情群のことです。
人にはさまざまな感情が起きますが、ポジティブ感情を抱いているときには、疲れを感じにくく、やりがいや集中力も高まり、結果として、生産性が圧倒的に上昇することが知られています。逆に、同じ条件でも、ネガティブ感情が優位になると、集中力が下がり、やる気や忍耐力も衰え、話す言葉もネガティブになり、結果として、本人も周りも疲弊が募って生産性は下がっていきます。ポジティブ感情は、事業が発展するための、大きな資源となるのです。
3 個人の感情が束となって職場の感情になる
感情は個人的なものですが、職場のような集団においては、属するメンバーの感情が互いに影響を与え合って、集団の感情が形成されます。これは職場のムードとも言えます。
職場のムードが、生産性や事業成長に直結することは知られていますが、そこに本気で取り組んでいる経営者は意外と少ないのが実態でしょう。ここに風穴を開けるのが、まさにウェルビーイング経営の導入です。
スペックの高い社員を必死になって採用するよりも、採用した人材に負荷をかけて長時間労働をさせるよりも、採用した人を支えるためのコーチングを取り入れるなどしてポジティブな感情を職場に広げる方が、はるかに投資効果が高い。これは、経営学でも心理学の研究からも明らかなのです。
職場でのポジティブな感情をいかに増やすか、これがウェルビーイング経営の観点では大きなカギとなります。