マイクロアドは2007年7月にサイバーエージェントの100%子会社として設立された会社である。2010年10月にSSP(Supply-Side Platform)と呼ばれるネット上のメディア側の広告枠販売や広告収益の最大化を支援するプラットフォームの提供を開始した。ただし、現在の主要事業は広告コンサルタントとデータプロダクトの販売がおよそ5:5となっている。業績が順調な成長軌道に乗っていることもあり、同社は2022年6月に東証グロース市場に上場している。
売上総利益率は広告コンサルタントが約20%、データプロダクトが約40%となっており、昨今は特にデータプロダクトの拡大に注力している。
同社のデータプロダクト「UNIVERSE」のビジネスモデルは様々なデータを保有している企業から消費者行動データを入手して、AIによる独自の分析手法を用いて、業種ごとのマーケティング商品を作成し、それを自社の広告ネットワークに配信することで、広告主から広告費をもらうビジネスモデルである。現在は19業種に向けたマーケティングプロダクトを広告主企業に提供している。提供先の業種には自動車、飲料・食品、エンタメなどの業界がある。最近では、新NISAの口座開設の需要を喚起する金融向けの製品を新たにリリースしている。ブランドごとにアカウントを計測すると、現在500ほどのブランドが同社のUNIVERSEを採用している。
データプロダクトはネット上の広告手段として用いられるツールであるが、使われ方には二つのパターンがある。一つは多くの企業が手掛けているもので、ECサイトやネット系サービスなど、ネット上に広告を出して、オンラインでその場において購買が完結するケースである。そして、もう一つのパターンが、ネット上の広告で訴えることで、自動車や飲料・食品メーカーなど実店舗で購入してもらうケースである。前者をダイレクト領域、後者をブランド領域と呼んでいる。同社では特に後者のブランド領域に特化することで競争力を付けている。
ブランド領域に特化するためには、その場での行動を後押しするよりも、より高度の技術を要することになる。そのため、競合企業が少ないというメリットがある。また、これまでブランド広告として主に用いられてきたマス広告(TVCMなど)からのデジタルシフトを進めることで市場拡大が期待できる。特に直近ではコロナによって、オンライン完結型が大きく市場を伸ばしたが、コロナが第5類に移行したことで、人流回復からややオンライン市場に反動減があり、実店舗市場に勢いが出ているという面もある。
このような背景もあって、同社はブランド領域に特化した強みを発揮し、市場全体が停滞する中でも同社のデータプロダクトは直近四半期でも年率40%ほどの成長を遂げている。
有賀の眼
経産省の特定サービス産業動態統計調査の広告業のデータによれば、ほんの10数年前にはわずかにすぎなかったインターネット広告は、メディア内で最大の市場であるテレビ広告にコロナ下の2021年にはほぼ肩を並べ、2022年には完全にテレビ広告を上回るまでに成長した。
ただし、そうは言ってもこれまでのネット広告は、ネットに広告を掲載することで、ECサイトに誘導し、そこで製品やサービスを購入してもらうことが中心であった。しかし、同社が現在特化しようとしているのは、まさにTVCMと同じく、その広告を見て、実店舗に足を運んでもらって、購入行動をしてもらうためのCMである。
もちろん、これまでもネット上にはTVCMと同様な使われ方をするブランド広告もあることはあるが、構成比で言えばそれほど多くはなかった。これは一度に視聴する視聴者の人数がテレビと比較すると少数であるため、ブランド広告の効果を広告主側がつかみにくいという面があったのではないかと思われる。
しかし、同社の「UNIVERSE」では様々な消費者行動データを活用し、さらにAIによる分析によって、そのWEBサイトやSNSの内容を解釈して、その訪問者によりふさわしい広告を配信できることで、その後の消費者行動をある程度コントロールしようというものである。その意味ではなかなか面白い手法ではないかと思われる。
さらに、使う方側の広告主から見れば、テレビであれば、少し観察していれば、その時々にライバルがどんな広告を流しているかは簡単に理解出来て、それがどう売上につながっているかも把握できる。そこで、それに対抗する手段も取りやすいものである。しかし、個々の消費者単位にネット上で流されるCMはなかなか把握しにくく、対抗手段なども取りにくいのではないかと考えられる。よって、広告主とすれば、他社よりもいち早くこの手法を使いこなすことで、ライバルに差をつけて一歩先を行ける可能性があるのではないかと考えられる。一考の余地がありそうな手法と言えるのではなかろうか。