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国のかたち、組織のかたち(3) 日明貿易で国益をはかる(足利義満)

指導者たる者かくあるべし

「日本国王」を名乗った義満

 室町幕府の三代将軍・足利義満(あしかが・よしみつ)は、応永8年(1401年)に、九州博多の商人肥富(こいつみ)と、僧侶の祖阿(そあ)を遣明使として中国に送った。日中間では、明に先立つモンゴル人による元の時代に二度の元寇によって国交断絶状態になっていたが、元を滅ぼした明は日本との外交関係の修復を望んでいた。

 日本側も、朝廷の皇統争いである南北朝の騒乱を義満が収め、北山に政庁を構える幕府権力は朝廷を抑え、二重権力体制を脱し幕府優位の政治状況を確立しつつあった。義満はすでに七年前に朝廷の下僕でしかない征夷大将軍の地位を息子の義持(よしもち)に譲り、国家の最高権力者として振る舞っていた。あとは、その地位の権威付けをどう確保するかだけだった。

 遣明使は、国内の珍しい産物を献上し、明からも翌年、答礼使節が訪日した。関係修復である。

 さらに翌年(1403年)、名君の誉高い永楽帝が即位すると、義満は表賀の国書を送る。その書き出しにこうある。

 「日本国王臣源表す」。自らを中国皇帝の臣下としての日本国王であると名乗った。これは日本史上、驚天動地の出来事だった。

 華夷秩序を逆利用する

 なぜなら、この行為は、朝廷の下部機関である幕府のトップOBが中国明のお墨付きでこの国を支配することになるからで、朝廷にとっては許しがたいことだった。伝統的な朝廷の認識では、日本は古代から、中国を中心とする華夷秩序の外にある独立国家だったからだ。だから国のトップは「天皇」という名の皇帝を名乗ってきた。朝鮮をはじめ、他の中国の隣接国は、中国に貢物を収めることで、「国王」として任命されてきた。定期的な朝貢の使節には中国皇帝から下賜品としての宝物を下される。この朝貢関係が、東アジアの国際関係、貿易関係の伝統的秩序だった。

 「日本国王」を名乗った一事をもって、義満は、裏切り者、対中国軟弱外交の具現者として低い評価を受け続けてきた。

 しかしそれは、明治維新以降の皇国史観の宣伝によるものであって、義満には、確固とした狙いがあった。それは、明の皇帝の権威を利用して、実質的な国政支配機構である幕府の権威づけを行うとともに国益をはかることだった。権威にあぐらをかく朝廷に国家支配の力は失われていたのであるから。義満のさらに大きな狙いは、15世紀に入って発展を見せている商工業の発展と流通の活性化にあった。

 勘合貿易と永楽通宝の威力

 中国中心の国際秩序に飛び込むことによって室町幕府は、明から日明貿易の独占権を手に入れた。貿易許可証に割印を押したもの(勘合符)を受け取った幕府は、これによって明との交易に乗り出す。日本からは、中国で不足する銅、硫黄のほか、刀剣、漆器や屏風を輸出し、中国から生糸、織物、書物が輸入された。何よりも価値があったのは、貿易代金として支払われる明銭(永楽通宝)だった。

 日本から輸出された銅が、明皇帝のお墨付きを得た貨幣となって帰ってくる。この大量の権威通貨は、貿易決済に使われるだけでなく、日本国内でも取引決済通貨としても流通し、商工業の発展にも寄与した。

 勘合貿易権は、幕府ばかりでなく、博多商人、大内氏などの有力守護大名、寺社にも幕府へのリベート支払いを条件に貸し出され、幕府の大きな収入源となるばかりでなく、貿易発展に大き役割を果たすことになる。

 室町時代というと、応仁の乱から始まって、後の戦国時代の混乱ばかりが強調されるが、実は、日本が資本主義初期段階に突入しつつあった東アジアの流れに乗る偉大な時代だったのだ。

 その時代に、北山、東山文化が花開き、庶民の間にも種々の文芸、文化が広がっていったのは当然なのだ。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

(参考資料)
『日本の歴史9 南北朝の動乱』佐藤進一著 中公文庫

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