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<事例―6 東レのアルカンターラ(B2B)>高級車市場のシートや内装材に絞り込んで、ブランド化に成功した人工皮革…それが東レのアルカンターラだ

酒井光雄 成功事例に学ぶ繁栄企業のブランド戦略

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画像出典:東レHP http://www.toray.co.jp/

 

●もともとは「エクセーヌ」の名前で登場

 1970年に東レは自社の最先端技術を集結して人工皮革の開発を行ない、断面積比で髪の毛の400分の1という細さの原糸を用いた製品が誕生しました。スエード調の人造皮革ブランドとして日本国内では「エクセーヌ(Ecsaine)」の名前で、アメリカでは「ウルトラスウェード」というブランド名で展開、ファッション業界で注目を集めます。
 
 1972年、イタリアのアニッチ社との合弁でイガント社(現在のアルカンターラ社)を設立して現地生産を開始。ヨーロッパでは「アルカンターラ」として展開することにします。
 
 この人工皮革は耐久性や耐光性・難燃性に優れており、本革スエードや既存の合成皮革と比較して手入れに手間がかからないという製品特性を備えていました。しかしファッションの分野では「本物のスエード」ではなく「人工スエード」である点が、生活者から見てネックでした。
 
●ヨーロッパの高級車に採用され、ブランド力が一気に向上する
 
 その後、東レはこの製品の優位性を発揮できる市場を開拓することに努め、ついに大きな鉱脈を発見することになります。それが自動車の中でも、ヨーロッパの高級車市場です。
 
 自動車業界は非常に高い品質基準を設けており、安全性を満たし、要求される基準をクリアした上で、快適で質の高い居住空間を実現できる内装材が必要とされます。そこで東レは高級車の内装に本革を使用することの多いヨーロッパ市場に注力し、1980年代から手間が必要な本革に代わる高級素材として普及させることに注力していきます。
 
 自動車の内装用として1984年にこの製品を本格的に採用したのは、イタリアのランチアで、後に同社の全車種で使用することになります。その後、マセラッティ・ランボルギーニ・BMW・アウディそしてポルシェのシート素材などに採用されていきます。
 
 日本ではブランドイメージの高いランチアの高級内装材に採用されたことが知られ、その後トヨタや日産などの日本車の一部にも採用されていきます。近年はシートカバーの素材だけでなく、ダッシュボードや天井などの内装張替え素材としても採用されていきます。
 
●高級自動車の世界共通の内装用グローバルブランドとなる「アルカンターラ」
 
 「アルカンターラ」というブランド名は、アラビア語のAl Kantarをイタリア語風にアレンジした造語で、日本とイタリア両国の友好の「架け橋」であり、東洋と西洋の文化の「架け橋」でありたいという願いが込められているそうです。
 
 東レは1972年にイタリアのアニッチ社との合弁でイガント社(現在のアルカンターラ社)を設立し、現地生産を開始しています。ヨーロッパでは「アルカンターラ」のブランドとして高級車の内装材として採用されたことから、自動車業界でアルカンターラというブランド名は広く市場に浸透し、そのブランド価値を高めていくことになります。
 
 そして東レは2003年に、高級自動車向け内装用素材のグローバルブランドとして、世界共通で「アルカンターラ」の名前に統一するのです。
 
 
アルカンターラの事例に学ぶこと
 生産財メーカーは製品機能を高度化させて、自社の優位性を発揮する取組みが多く見られる。アルカンターラは本革スエードに対して優位性を備えるだけでなく、製造工程で二酸化炭素(CO2)の排出量を49%削減し、2009年にイタリアの企業として初めて「カーボンニュートラル」の認証も獲得している。
 
 しかし東レは単に「モノの差別化」だけに終わらず、高級車市場に絞り込んで自社独自のブランドを育てる戦略を立案して遂行。高級ブランドとして「アルカンターラ」のイメージを確固たるものにした。このブランド化の取組みの成果により、「アルカンターラ」の収益性は当然高くなっている。
 
 

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