相続に際し、できたらこのように図らえないものかと考える人がきっといるに違い ない。つまり、
1)社長候補の息子に持株を相続させるつもりである。
しかし後日、彼が社長としてふさわしくないことが判明したら別の候補者にい くようにしたい。
2)現時点では特定できないが、お金は一番有効に使ってくれそうな子供に残したい。
3)自分の死後、もし妻が再婚してしまったら彼女への莫大な遺産は大部分子供に渡して欲しい。
なんと日本には、こうした相続ニーズに対応可能な世界に誇れる法制が実はかつて存在していたのである。
鎌倉時代の1232年、御家人を治める目的で制定された御成敗式目である。
このことは私の友人でファミリーオフィスの専門家である武部保信氏から文献も含め教えてもらった。
彼自身、相続のことを調べていくうちに51カ条からなる御成敗式目に行きつき詳しく知ることになったという。
資産継承を中心に解説すると、18条には親が子供に譲与した所領を取り戻す権利(悔還し)の規定がある。
早期の資産継承を促しつつ、親に対する反道徳的な 行いの抑制に極めて有効といえる。
19条には、財産を与えられた家来が主人死後その子供と争い財産を奪おうとした場合、
その家来の財産を取り上げてしまう ことができるという規定がある。
26条は、御家人が所領を子供に渡したという幕府の証明書があっても、
父母の気持ちによって他の子供に相続を替えることができると定めている。
そして27 条では、御家人が相続のことを決める前に死亡した場合、
残された財産は働きや能力に応じて妻子に分配することとある。
怠け者をいさめる能力主義のスタンス なのである。
ちなみに、離別した妻や妾に落ち度があった場合は以前に与えた土地を取り返してよいが、
そうでない場合は離別しても土地を取り返すことはできない、となかなかフェアーである。
夫の死後妻はその菩提を弔うのが努めだから、再婚する場合は
亡夫から相続された領地を亡夫の子供に与えなければならない、としている。
相続に関しての考え方は国によっても時代によっても大きく異なるのだが、13世紀の日本に
このような痒い所に手の届くような法制度があったということを知り、祖先の知恵に深く感銘を受けた次第である。
榊原節子