2014年5月29日から、東京ディズニーランドで初めてのプロジェクションマッピングを活用した
新エンターテインメント「ワンス・アポン・ア・タイム」が始まり大盛況だ。
4月からの消費税増税に対抗すべくディズニーも採用したプロジェクションマッピングが、
近年、全国各地で、コンサート、エンターテインメント施設、商業施設、駅、名所旧跡など、
さまざまな場所と機会において、新たな演出と集客の切り札として活用されている。
プロジェクションマッピング(Projection Mapping)とは、
主にCG(コンピュータグラフィック)で作成した動画のプロジェクション(投影)を、
複雑な凹凸がある建造物や物体をスクリーンにしてマッピング(ぴったりと貼り合わせる)する
技術のことだ。
以下、このプロジェクションマッピングによって期待される波及効果と今後の展望を考察したい。
◆シンデレラ城を動く絵巻物にする新エンターテインメント「ワンス・アポン・ア・タイム」
東京ディズニーランドで、映像を立体的に投影するプロジェクションマッピングによる
新エンターテインメント・ショー「ワンス・アポン・ア・タイム」がスタートし、
大喝采を浴びている。
シンデレラ城の外壁全体を巨大なスクリーンに見立て、プロジェクションマッピングの手法で
映し出される動画を中心に、レーザー光線やサーチライト、花火も交えて彩られるビジュアルと、
映像に合わせて流れる音楽と効果音のサウンドによる演出が、
今まで体験したことのない、まったく新しいディズニーランドの姿を見せてくれる。
プログラムは約15分の間に7つのストーリーが展開される。
まず、映画「美女と野獣」のミセス・ポットが息子のチップに、
「ワンス・アポン・ア・タイム(むかしむかし)・・・」と絵本を優しく読み聞かせるところから
始まる。
そして、ふしぎの国に迷い込んだアリスがトランプの兵隊に追いかけられたり、
くまのプーさんがはちみつを探したり、「白雪姫」「アラジン」「リトルマーメイド」といった
ディズニー映画の人気キャラクターたちが、シンデレラ城の壁面いっぱいに駆け巡る。
さらには、「レリゴー!」で大ヒット上映中の「アナと雪の女王」のエルサとオラフも登場する。
今後、毎日1、2回の上映予定(荒天時は中止の場合あり)で、中央鑑賞エリアは当日抽選が行われる。
ディズニーランド内の建物や道路などハードにはまったく手を加えずに、
プロジェクションマッピングによって、
シンデレラ城自体を動く絵巻物とする新たな夜のエンターテインメントが誕生したのだ。
◆100周年で復元された東京駅がプロジェクションマッピングの始発駅となった
プロジェクションマッピングという技術を日本中に知らしめたのは、
2012年9月22日・23日に、東京駅で行われた「TOKYO STATION VISION」だった。
東京駅は、創建当初、3階建てだったが、第二次世界大戦末期の空襲によって著しく破損した。
戦後は予算が足りず、2階建てに改築され、長らく利用されていた。
そこで、JR東日本は、東京駅の100周年を記念して、大正時代当時の姿に100年ぶりに
よみがえらせた。
その復元工事の完成記念イベントとして、東京駅丸の内駅舎自体をスクリーンとする
プロジェクションマッピングによる映像スペクタクルショーを開催したのだ。
高さ30メートル、幅120メートルある東京駅の複雑な形状に合わせて、
46台の超高輝度プロジェクターを駆使して繰り出された約10分間の映像は、
まるで陸蒸気(蒸気機関車)や新幹線を初めて見た時のように人々の度胆を抜いた。
「時空を超えた旅」をテーマに、東京駅と鉄道の過去・現在・未来を巡る幻想的な情景が
映し出された。
昔なつかしいSLから現代の通勤電車のつり革やSUICAまで登場したと思ったら、
丸の内中央口の大時計をスピーカーのボリュームやスイッチに重ね合わせるなど
幻想的な映像を次々に投影。
映像に合わせて、「線路は続くよどこまでも」 といった鉄道唱歌から電車の発車メロディなど
効果的なサウンドが否が応でも臨場感を高める。
一夜にして見る者すべてを鉄ちゃんにしてしまい兼ねない圧巻のショーは爆発的な人気を呼び、
一目見ようと集まる人があふれ返り、イベントが一時中断される事態に陥った。
文字通り、東京駅が日本におけるプロジェクションマッピングの始発駅となり、
その後、全国各地で、この仕組みを活用したイベントが続々と開催されることになったのだ。
◆増上寺に「つけまつける」きゃりーぱみゅぱみゅの仰天バースデーライブ
東京駅の復元記念イベントの成功を受けて、2013年以降、各地で歴史的建造物をスクリーンにして
プロジェクションマッピングが行われるようになった。
その先駆けとなったのは、東京都港区芝公園の増上寺で開かれた、きゃりーぱみゅぱみゅの
バースデーライブだった。
2013年1月30日、前日に二十歳の誕生日を迎えたきゃりーが、東京タワー直下の増上寺で開催された
KDDIによるユーザー参加型イベント「FULL CONTROL TOKYO」に出演。
何と、「つけまつける」に合わせて、増上寺の山門に、プロジェクションマッピングによって
つけまつげを付けたり、ピンクの水玉模様を映し出したりした。
動画と音楽に合わせて、電飾が施されたきゃりーの衣装も一緒に光り、
寺の後ろにそびえたつ東京タワーも共に色を変える大掛かりな演出が行なわれた。
イベントのタイトル通り、きゃりーと会場の観客とでTOKYOをコントロールする前代未聞のライブとなった。
きゃりーがスマホに表示されたケーキに息を吹きかけロウソクの火を消すと、東京タワーの照明が消え、
寺の山門には「HAPPY 20th BIRTHDAY!」の文字が映し出された。
まさにクールジャパンを世界に向けて発信する歌姫にふさわしい温故知新の成人式となった。
◆歴史的建造物に動画を投影する地域おこしイベントが百花繚乱
きゃりーがプロジェクションマッピングのジャンヌダルクとなって後、各地で地域おこしのために、
城郭など歴史的建造物をはじめ地域のランドマーク的建造物に動画を投影するイベントが
百花繚乱となって行った。
2013年の3月9日・10日には、NHK大河ドラマの『八重の桜』の舞台として盛り上がりを見せていた
福島県会津若松市のシンボル鶴ヶ城で、プロジェクションマッピング・ショー「はるか」が開催された。
世界的にも珍しい日本の城郭を舞台に、東北最大規模のプロジェクションマッピングとなった。
「はるか」とは福島を応援するシンボルとして森林総合研究所から福島県に贈呈された桜の木の名だ。
音楽は坂本龍一氏が手がけた『八重の桜』の楽曲を使用し、
「はるか」が大輪の花を咲かせる10年後に想いを馳せた未来へのメッセージが桜の花びらとともに
鶴ヶ城に映し出された。
その後、大阪城や大阪万博記念公園の太陽の塔、金沢城など全国津々浦々で、
プロジェクションマッピングを活用して、従来からある建造物を活かした新たな地域の
魅力づくりが行われている。
◆プロジェクションマッピングの元祖と注目を集める理由
プロジェクションマッピングの手法は、1990年代の後半に、ヨーロッパで、オペラやミュージカルを
舞台で上演する際に、劇場などの建造物を活かした照明として発展を遂げたのだと言われる。
21世紀に入って、さまざまなイベントにも応用されるようになり、
2008年の北京オリンピックの開会式でも演出に使われた。
そして、2010年11月10日、アメリカン・トラディショナルの代表的ブランドであるラルフローレンが、
RalphLauren.comの10年間を記念して、NYのマディソンアベニューとロンドンのボンドストリートの
フラッグショップの外壁に投影したライブ・インスタレーション『Ralph Lauren 4D Experience』によって、
そういった手法の存在が世界的に知られるようになったのだ。
しかし、それまでにも屋外でレーザー光線や照明と音によって演出するライブ・パフォーマンスや、
屋内で立体の映像を見せるエンターテインメント・ショーは世界中に存在していた。
では、近年、プロジェクションマッピングの、一体、何が注目を集めているのだろうか?
それは、平面のスクリーンではなく、形状が複雑な立体の建造物や物体や人間などに投影する手法が斬新で、
かつ、不動なはずの見慣れた建物などに新たな生命が吹き込まれたかのような擬似ライブ感覚を味わう体験が
真新しいのに違いない。
◆地域に根差したプロジェクションマッピングのコンテンツを創ろう!
一方、日本において全国各地にプロジェクションマッピングが急速に広がりを見せているのはなぜだろうか?
その理由は、TBS(東京放送)系列の「Nスタ」(2014年4月25日)で放送された特集
「プロジェクションマッピング人気の背景」のコメント出演で述べた通りである。
それは、地域の文化財や自然に手を加えずに、夜の観光の集客につなげられることが大きい。
そして、夜、数多くの観光客を集客できれば、当然、その地で夕食を食べる人も増えるし、
宿泊する人も増加することにつながるのだ。
また、夜間、大都市部より地方の方が暗い場合が多く、投影効果が高いこともある。
さらには、プロジェクションマッピングの映像や音には言語が必要ないため、増加する海外からの
インバウンド観光客に対して地域の魅力を伝えるコミュニケーションツールとして有効なのだ。
今後もプロジェクションマッピングは、国内外からの観光客誘致のため
シティセールスの有効な手段として、各地で活用されるに違いない。
国内のプロジェクションマッピングの市場規模は、毎年、倍々ゲームで増加しており、2015年には
3250億円にまで成長すると見込まれている。
しかし、当然、真新しさは徐々に薄れて行くし、どこも同じような演出を行っていれば陳腐化は避けられない。
最終的には、映画、テレビ番組、テレビゲーム、演劇、音楽、小説などと同じく、
コンテンツの企画力・制作力にかかってくる。
その地の歴史、自然、伝統、文化に根差した地域にふさわしいプロジェクションマッピングのコンテンツを、
手を替え品を替え、創って行かねばならない。