2015年4月から、食品の新たなカテゴリーとして
「機能性表示食品制度」がスタートし、
一大ビジネスチャンスが到来すると期待を集めている。
今まで、食品の健康への効果を表示できたのは、
トクホ(特定保健用食品)と栄養機能食品の2つに限られていた。
しかし、トクホは、商品ごとに審査して消費者庁が許可していたが、
有効性や安全性に関する臨床試験が必須であるため、
承認されるまでに巨額の費用と長い時間がかかっていた。
また、栄養機能食品は、17種類のビタミン・ミネラルに限って、
その成分を一定量含む食品に効果を表示できるものでしかなかった。
それ以外の、生鮮食品、加工食品、健康食品、サプリメントなどは、
たとえ、明確なエビデンス(科学的根拠)が存在しても、
健康に対する効果を具体的に明示できなかった。
そのため、「すっきり」とか「・・・が気になる人へ」といった
あいまいな表現にとどまらざるを得なかった。
それが、新制度によって、企業の自己責任の下、
体への効果が明らかなエビデンスを持っていれば、
「機能性表示食品」と機能を表示できるようになるのだ。
新たな食品カテゴリーの登場をきっかけに、
食品の持つ健康への効果を訴求できるため
、一大ビジネスチャンスが到来すると期待を集めている。
しかし、一方で、
健康被害、食品偽装表示といった食の安全安心を揺るがす事件が、
日々、続発しており、消費者にとっては大きな不安が残る。
以下、「機能性表示食品制度」のポイントと課題を明らかにすることで、
新制度を活用して食品関連ビジネスの可能性を極大化し、
リスクを極小化する処方箋を描きたい。
食品表示制度の歴史的転換
2013年10月以降、既に日本人の4人に1人以上は
65歳以上の高齢者(老年人口)となっている。
病気を未病の段階で予防し、介護を受けずとも、健康に長生きしたいという
国民のニーズはますます高まっている。
日本人の平均寿命(2013年)は、男性80.21歳、女性86.61歳で、
いずれも過去最高を更新した。
しかし、日常生活に制限がなく健康に生きられる時間である「健康寿命」は、
男女ともに寿命より約10年も短い。
長生きしても、「健康寿命」が短くては、本人も家族も幸せであるはずがない。
一人一人が健康寿命をのばし、日本が世界に先駆けて
「健康長寿社会」を実現することが、個人にとっても、家族にとっても、
企業にとっても、地域にとっても、国にとっても、大切なことだ。
言うまでもなく、私たちのからだは食べたものでできている。
医食同源の言葉通り、毎日、何をどのように食するかによって、
健康の度合いは大きく左右される。
新たな制度のスタートは、わが国における食品表示制度の歴史的転換点となる。
そして、それを、私たち一人一人の健康づくりのための
意識改革のスタートとしなければならない。
新たな「機能性食品表示制度」は食のビッグバン
今回スタートする新たな「機能性食品表示」によって、
食品の何の成分が体のどの部分にどのように良いかを表示できるようになる。
農林水産省、厚生労働省、経済産業省などともに、制度を所管する役所の一つである
内閣府の外局である消費者庁は、
当初、体の特定部位を対象にした健康維持・増進の効果を示す表現を認めることは
医薬品の効果と混同されるとして消極的だった。
しかし、消費者からも、従来の「疲れ目が気になる方に」といった、
あいまいで思わせぶりな表現が逆に分かりにくいとの声が強かったため方針転換した。
現在、認められているトクホ(特定保健用食品)と栄養機能食品の2制度は継続され、
それらとは別に新しく「機能性食品表示制度」が制定されることとなった。
2015年4月以降、一定の条件を満たせば、健康の維持・増進の範囲に限って、
医薬品にしか許されていなかった食品の機能性表示が可能となり、
体の特定部位を対象にした健康への効果を示す表現が解禁される。
例えば、
「目の健康をサポートします」「鼻の調子を整えます」「肝臓の働きを助けます」
といった直接的な表現が可能になるのだ。
新制度は、原則としてすべての食品が対象になる。
野菜や果物、魚や肉などの生鮮食品、お茶やそば、かまぼこなどの加工食品、
いわゆる健康食品やサプリメントなども機能性表示ができるようになる。
ただし、過剰摂取が問題になる可能性がある、アルコールを含む飲料、
塩分や糖分を多く含む食品は除かれる。
具体的には、温州ミカンは、「β-クリプトキサンチンを含み、骨の健康を保つ食品です。
更年期以降の女性の方に適しています」などと表示できる。
また、ホウレンソウであれば、「ルテインを補い、目の健康維持に役立ちます」。
豆乳ならば、「β-コングリシニンを含んでいるため、遊離脂肪酸を減らす働きにより、
正常な中性脂肪の値の維持に役立ちます」。
ダッタンそばは、「ルチンを含み、正常なコレステロール値の維持に役立ちます」
といった表現が可能になるのだ。
「機能性食品表示」の解禁は、あらゆる食に関するマーケティングの
コペルニクス的転換となる。
新制度誕生による食の新たなビッグバンは無限の可能性を秘めている。
目指すべきはTPPに打ち勝つ世界最先端の機能性食品表示
「機能性食品表示制度」の制定に当たっては、
サプリメントや健康食品の機能性表示に関して日本よりも先んじている、
アメリカの「ダイエタリーサプリメント制度」を参考にしている。
アメリカでは、「ダイエタリーサプリメント制度」が、1994年から導入されている。
この制度は、医薬品とサプリメントの明確な区別、
消費者のサプリメント摂取目的の明確化、サプリメントに対する知識と理解の促進、
産業育成、医療費削減などの目的で始まった。
制度の制定によって、その後、アメリカでは、サプリメントや健康食品産業が急成長した。
それまで5千種ほどしかなかった商品が、この20年で8万種にまで拡大し、
業界全体の売上高も7倍の3兆5千億円にまで増大し、消費者の選択肢が広がった。
市場が成長するにつれて、加工方法や調整方法が進歩して品質も格段に向上している。
それまで医薬品にしか認められていなかった機能性表示をサプリメントや健康食品にも、
一定の条件を満たせば認めるという規制緩和によって好循環が生じ、
それがさらにイノベーションにつながっているのだ。
日本政府は、「機能性食品表示制度」を、景気回復を確実なものとする
成長戦略の一つに位置付けている。
アメリカの事例に学び、規制緩和によって新たな市場創出を目指しているのだ。
また、
食品の対日輸出拡大を狙うアメリカとのTPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉を
にらんだ施策でもあるに違いない。
機能性食品先進国であるアメリカから一方的に売り込まれないためにも、
逆にアメリカのみならず海外に輸出可能な競争力を持った
農林水産業、食品産業を育成して行かねばならない。
目指すべきは、アメリカレベル、世界レベルではなく、世界最先端の機能性食品表示である。
「書かせない規制」から「書かせる規制」へ
新制度によって、企業は、自らの自己責任の下、体への効果が明らかな
エビデンスを持っていれば、「機能性表示食品」と機能を表示できるようになる。
しかし、政府の認可が要らないということは、企業は何をもって客観性を担保し、
消費者は何を信じて良いのかがあいまいになってしまう。
ただでさえ、食品の消費期限切れ事件、産地偽装事件、期限切れ肉使用事件や
異物混入混入事件など、毎日のように、食の安全安心が揺らぐ事件が続発しているのに、
すべての企業を100%信じることなど不可能である。
消費者団体からも、新たな制度の導入によって、
効能の根拠があいまいな健康食品が増えるのではという懸念の声があがっている。
そこで、新制度では、企業が食品を販売する前に、食品の機能性表示を行うに当たり、
(1)最終製品を用いた臨床試験、
(2)最終製品または機能性関与成分に関する研究レビュー
の2つのいずれかの方法で、
科学的根拠を立証する情報を消費者庁に届け出なければならないことが定められる。
消費者庁は、企業が届け出の際に提出した資料に基づいた情報を同庁のホームページなどに掲載し、
消費者が閲覧・判断できるようにする。
前述のアメリカの「ダイエタリーサプリメント制度」では、販売後30日以内に届け出なければならない。
これに対し、日本の「機能性食品表示制度」は、事前に機能性と根拠を届け出て、
WEBで情報を開示する世界初のオープンな制度となる。
また、容器や包装には詳細な表示が義務付けられる。機能性関与の成分名、
1日の摂取目安量と含有量、摂取上の注意。安全性・有効性について国による評価を受けていない旨。
疾病の診断・治療・予防を目的としたものではない旨。
バランスの取れた食生活の普及啓発を図る文言などを表示しなければならない。
そして、もし違反表示があった場合には、食品表示法により取り締まりが強化される。
また、明確な根拠がない表示は、薬事法や健康増進法による処罰の対象にもなる。
さらには、販売後のチェックによって、安全面に重大な問題が確認された場合は、
企業に回収を命じるケースもあり得る。
今回の規制緩和によって、科学的裏付けのない食品は、
従来の度が過ぎたイメージ広告はできなくなり、いいかげんな業者には逆に規制強化になる。
製造工程での衛生管理や品質管理など、消費者にとって必要な規制は強化され、
それを遵守できない事業者は業界から淘汰されることとなる。
言わば、「書かせない規制」から「書かせる規制」に移行するのだ。
企業は、「書く」権利を得た以上、それにともなう責任も生じるのである。
「機能性表示食品制度」という千載一遇のチャンスを活かそう!
「機能性表示食品制度」によって、食品が持つ健康への効果の表示が解禁されるということは、
あらゆる食品の存在意義と認識が再定義されるとも言い換えられる革命的変化だ。
施行当初は、当然、混乱も生じるだろうし、一部の悪徳業者が法の目をかいくぐって
跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)するかも知れない。
しかし、和食が世界無形文化遺産に登録されたように、日本の食は
クオリティもセンスも味も栄養バランスも世界一だ。
日本人の健康寿命を延伸し、世界に先駆けた健康長寿社会を実現すると同時に、
日本の食品関連ビジネスの競争力を高め、世界中のマーケットで勝ち抜くために、
「機能性表示食品制度」のスタートという千載一遇のチャンスを最大限に活かそう!