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- vol.3 「日大アメフト反則タックル問題:謝罪会見」から企業トップが学ぶべきこと
5月23日付のThe New York Times一面にまで載ってしまった今回の日大アメフト部選手の反則タックル問題。日本のみならず、すでに世界に伝えられてしまっています。
参考記事
The New York Times
“The Football Hit Felt All Over Japan”
関学大アメフト部の鳥内監督・小野ディレクターの会見、被害者である関学大の選手奥野君の父親の会見、日大アメフト部内田前監督の空港での会見、加害者の日大アメフト部宮川君の会見、そして日大アメフト部内田前監督と井上コーチの会見、すべての映像をノーカットで見て、世界にも伝えられてしまったこの問題の現時点の状況を通し、ここでは誰が悪者ということは言及せず、今回の事件が必要以上に大きくなり国民感情を煽ってしまった原因から、経営トップが心して常に備えておかねばならない、当たり前かつ不可欠な危機管理に関する事柄とその対処についてピックアップします。
1. 物事全ては初期対応・中でもクライシスは超スピード対応
まず、今回の問題で何が一番問題を大きくしているかといえば、日大側の動きの遅さ。会見一つとっても出遅れた感がありありとしています。すべての物事は初期対応が大事。特に突然起こるクライシスの対応はスピードが命です。それが出来ないが故に、会社や組織など簡単に潰れてしまうことがあるのです。もし、今回の問題で行われている幾つかの会見の順番が違い、日大の会見がどこよりも早く、最初に行われていたら、責められるにしても状況はきっとここまで悪くはなっていなかったでしょう。釈明として受け取ってもらえる部分もあったはず。ニューヨークタイムスの一面に記事が出てしまうこともなかったと考えられます。しかし、今回のように全てが後手後手となった日大側の対応では、例え噓偽りのない事実を話したとしても、後から入ったことは「言い訳」「責任転嫁」としか受け取ってもらえなくなってしまうのです。その上、早く対応しないその行動は「誠意の無さ」と受け取られてしまうわけです。
2. スポーツ競技のスクールカラーは制服ではない
そこに来て、関学大に向かう為に降り立った伊丹空港で行われた内田前監督の会見では、まさかのピンク(桜色)のネクタイ。日大のスポーツ競技時に使われるスクールカラー。もし、これが制服の一部として作られたネクタイであれば、たとえピンクだったとしても正式な場に着用するものとしてクライシス会見時に用いてもおかしくなかったでしょう。しかし、あくまでスクールカラー、それもスポーツ時のもの。制服として様々な場面を想定した色でもましてや物でもありません。当然自分を控えなくてはならない場面に相応しいものとは判断してもらえません。早期対応がなされず、負の感情が高まっているところに、ふんわり楽しそうなピンクのネクタイで出てこられたら、それを見た人は「真剣味がないのか?」と苛立ちや反感を抱きます。これが人間の心理。
参考映像
悪質タックル問題で辞意 内田監督会見
3. 名前は正しく、間違いは最悪
ビジネスにおいて名前の間違いは最も失礼なことの一つ。それにもかかわらず、これから謝りに行く大学の名称を終始間違えて呼び続けるという失態を犯してしまったことも、それを目にした人々に負のイメージを植え付けてしまった原因となりました。隣に日大関係者がいながら、すぐに間違いを知らせることもしない。謝罪の場では、可能な限り与えなくて良いマイナスの印象を排除するのが鉄則であるにも関わらず、最後まで間違え続ける(間違えさせ続ける)ありさま。名称はその人や企業の顔と同じであることを忘れてはならない。
4. 相互理解・伝達の確認
問題となった反則タックルを「言われたからやった」「そういう意味では言っていない」という話が双方から話されている点。これはどういう状況で、相互にそのやり取りがなされたか?という環境設定と相互のパワーバランスによる心理状態にも関係してくるため、想像で話をするつもりはない。しかし、上に立つ立場や人を管理する役割を持った人間が徹底すべきは、「誰にでもわかる言葉で話す」ということ。確かにスポーツの世界では、荒っぽい表現が使われることも稀ではありません。それと同時にスポーツはルールを守ることが当然の大前提です。しかし、伝えたはずの言葉が正しい意味として相手に伝わっていないとしたら、それは伝えたことになりません。思いもよらない受け取り方をする人が世の中にはいるということを前提に、誰が聞いても間違いようのない言葉と表現をするのが、人の上に立つ人間の責任です。それに、一度で全員にきちんと伝われば、誤解や認識の違いによるトラブルを引き起こさずに済むというリスクマネジメントに加え、時間も労力もセーブできるのです。
参考映像
反則タックル問題 日大の内田前監督らが会見
5. 適材適所・人の選択を正しく
日大内田前監督・井上コーチの会見は、記者やレポーターが過剰に同じ質問で食いついているように見えたのは確かであり、この会見の場合、それを上手く整理するのが司会者の役割。しかしながら、年齢のせいか、はたまた発声のせいか、声が揺れる上にクライシスという状況や場をわきまえた正しい言葉や対応表現を使えない人を司会者にしてしまったが故に、さらに日大は印象を悪くする事態に陥ってしまったのは間違いありません。立場が悪い人が会見する場を仕切るには、冷静かつ理路整然と、時に毅然とした強さを持って対応できる人物をその役割に抜擢しなくてはならない。今回の場合、広報部顧問とはいえ場を収めるどころか、火に油を注いだ結果となったわけです。適材適所、これで結果は大きく変わるのです。
反則タックルによって相手大学の選手が入院するほどの怪我を負う、それはまぎれもない事実。大変な問題であることは確かですが、これほどの大事になり、過剰なヒートアップを見せている背景には、「日大側の姿勢」として人の目に見える彼らの判断や行動そして対応に不適切さが目立ち、その結果これほどに見る人への負の印象を与え、大問題になっていると言えるのではないかと思うのです。そして重要なことは、上にあげた一つ一つの不適切な判断や行動は、実は誰もがやってしまいがちなことばかり。「そんなこと大丈夫と」と思って後回しにされがちな部分だからこそ、いざという時命取りになる。当たり前なことこそきちんとすることは難しい。メディア露出の有る無しに関わらず、会社という組織を持ったら危機管理の方法を事前に整えておくのは非常に重要なこと。これもトップの責任です。人の振り見て我が振り直せ、今がいい機会かもしれません。