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第13話 なぜ?「透明飲料」がウケる理由

北村森の「今月のヒット商品」

昨秋に透明なミルクティが発売になったと思ったら、今年6月になってまた新しい透明な飲料が相次いで登場しましたね。
 
ひとつは、「コカ・コーラ クリア」(コカ・コーラシステム、151円)。レモンフレーバーの効いた味わいです。もうひとつは、皆さんもすでにご存知の通り、透明なノンアルコールビール。これには驚いた方も多かったはず。「オールフリー オールタイム」(サントリー、147円)のこ
とです。
 
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わざわざ、透明にする理由なんてあるのか。巷間伝わってくるのは、ちょっと世知辛い事情ですね。
 
職場で「色のついた飲み物」を仕事机に置いていると、周囲の人や外来客からクレームが入る恐れがあり、口にしづらい、というもの。そこまで厳しい目が光っているのかと、ちょっとげんなりするような話ではありますが、業種によっては実際にそのような空気も漂っているのでしょう。
 
ただし、別の側面から、この透明飲料ブームを分析することもできそうです。
 
それは「一種のゲームを促す商品である」という側面。職場で目立ちたくないけれど、密かに(そして、したたかに)多様な味を楽しみたい、というニーズに応えた、と言えなくもないですよね。
 
この「消費者のゲーム意識に応える」という開発コンセプトは、飲料以外の他業種でもある話です。例えば、国産高級セダン。地方都市で会社を経営するオーナーの方など、「悪目立ちは避けたいが、所有欲はきちんと満たしてくれる、そんな一台が欲しい」というケースがありますね。国内市場向けに開発されてきた歴代のトヨタ自動車「クラウン」など、まさにそうした切なる要望を受け止めるつくりをなしています。近年のモデルは、ユーザー層の若返りを目指してか、ちょっと派手めのデザインに振っていますが、2004年モデルの「クラウンマジェスタ」などは、言うなれば「ゲームに勝つ=目立たないながらも密かに満足できる」ためのデザインワークが徹底されていたと、私は解釈しています。
 
話を戻しましょう。とりわけ、透明ノンアルコールビールの「オールフリー オールタイム」は、消費者のゲーム意識に絶妙なまでに刺さる商品だと思います。
 
これ、ペットボトル入りなんですが、ご丁寧にも、商品名をあしらっているラベルを剥がすためのガイドラインが描かれています。ラベルを剥がせば、遠目に見る限り、ただの炭酸水です。例えば、つまらないけれど延々続くような会議の場などに持ち込んで、なんだか、ちょっとあおってみたくもなりますよね。
 
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この画像は、「オールフリー オールタイム」の発売初日である6月19日に、東京都内のコンビニエンスストアで撮影した1枚です。
 
発売していきなり品切れとなったコンビニが、私が見た限りではありますが、けっこうあった印象でした。聞けば、この商品、新発売時の一斉出荷数量だけで、すでに今年の販売計画の約3割を達成したらしい。消費者にすれば、何をおいてもやはり、まずは試したくなるのでしょう。
 
実際にビールっぽいか、そうでもないか……。そこは人それぞれの感想であると思います。でも、試し買いを誘発し、味への議論を呼んだことひとつをもって、これはサントリーの勝ちでしょう。
 
私が特に面白いと感じたのは、2009年にキリンが「キリンフリー」を発売して以来、ノンアルコールビールの世界では「いかにビールに似せるか」を競ってきたはずなのに、今回の「オールフリー オールタイム」では、その競争から離れて「いかにビールに見られないか」をテーマに持ってきたところです。サントリーによると、この商品は、同社の若手マーケッターがノンアルコールビールの新しい可能性を探った意欲作なのだそうです。
 
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こうした透明飲料ブーム、日本だけのことかと思いきや、実はそうでもなさそうです。
 
例えば、上の画像の商品。日本にはまだ上陸していないのですが、英国発の「クリアコーヒー」、つまり、透明なコーヒーなんです。この画像は製造元から取り寄せた物です。ちゃんとコーヒー豆を使っているそうで、人工的な香料でつくったのではないといいます。私、一度飲む機会に恵まれましたが、すっきりした味で、それなりにまとまっていた感がありました。
 
どうしてわざわざ?と、やっぱり聞きたくなりますが、これは、コーヒーを飲む人のなかには歯に色が付いてしまうのを気にする層が少なからずいることに着目して、開発されたらしい。
 
消費者が諦めていたところに斬り込む商品は、えてして強い存在感を放つ、ということが、この商品からもわかりますね。

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