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- 第12回 『働き方改革ってなに?』
近年、至るところで聞かれる、「働き方改革」。しかし、田中社長には、具体的にどういうものかいまいち腑に落ちません。そこで、田中社長は、賛多弁護士に相談してみることにしました。
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田中社長:賛多先生、最近、「働き方改革」という言葉をよく聞くのですが、具体的にはどのような改革なのですか?
賛多弁護士:「働き方改革」というのは、おおまかにいうと、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等を目的とした一連の改革のことをいいます。
田中社長:‥‥やや抽象的でよく分からないのですが。
賛多弁護士:確かに、そうですね。長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現の具体的な政策としては、①時間外労働に上限が設けられたこと、②年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し5日の休暇を指定して取得させることが会社の義務となったことなどが挙げられます。また、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等の具体的な政策としては、③いわゆる「同一労働同一賃金の実現」などが挙げられます。
田中社長:まず、①時間外労働に上限が設けられたというのはどういうことですか?
賛多弁護士:これまでは時間外労働の上限は大臣告示という行政指導で月45時間・年360時間と定められていましたが、年6カ月まではこの上限を超えて時間外労働を行わせることができ、その場合の上限がありませんでした。
田中社長:なるほど。36協定さえ交わしてしまえば、実際には無制限に時間外労働、つまり、残業をさせることができたということですね。
賛多弁護士:そうです。しかし、そのために心労がたたり、健康を害してしまう人や最悪の場合、過労死で亡くなってしまう人もいました。また、国際的に見ても日本の労働者の1人あたりの生産性は低いと言われており、その要因の1つに長時間労働が挙げられていました。
田中社長:なるほど。そこで、時間外労働に上限が設けられたということですね。
賛多弁護士:その通りです。時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満、時間外労働と休日労働の合計は2~6カ月平均80時間以内という上限が設けられました。このように時間外労働には法律で上限が定められましたので、使用者はこれまで以上に労働者の労働時間をきちんと把握し、この上限を越えないように管理する必要があります。
田中社長:よくわかりました。次に、②年次有給休暇の付与が使用者の義務になったというのはどういうことですか?
賛多弁護士:年次有給休暇は労働者の権利ですが、使用者に申請しづらい雰囲気があったり、自分だけ休むことに心理的な抵抗があったりといった理由で、十分に有給休暇が取得されているとはいいがたい状況にありました。そこで、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、5日の休暇を指定して取得させることが使用者の義務となりました。
田中社長:どのような人が年10日以上の年次有給休暇が付与されるのですか?
賛多弁護士:通常のフルタイムの労働者では、6カ月以上勤務を継続し、全労働日の8割以上出勤すれば年10日以上の年次有給休暇が付与されます。また、短時間労働者では、所定労働日数が週4日を超える場合や年216日を超える場合、所定労働日数が週4日以下でも所定労働時間が週30時間以上の場合には、フルタイムの労働者と同じように年次有給休暇が付与されます。これらの要件に合致しない短時間労働者の年次有給休暇の日数はかなり細かな話なので、ここでは省略しますが、勤続年数が3年6カ月以上の者には年10日以上の年次有給休暇が付与される場合もあるということだけは知っておいてもいいかもしれません。
田中社長:短時間労働者、いわゆるパートタイマーでも年次有給休暇というものが認められるのは少し意外でした。ところで、5日の休暇指定が使用者の義務ということは違反した場合の罰則もあるのでしょうか。
賛多弁護士:5日の休暇指定の義務に反した場合には、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科されます。
田中社長:罰則まで科されるんですね。しかし、有給休暇を取らせることが罰則付きの使用者の義務ということになれば、会社も積極的に社員に有給休暇を取らせようとするでしょうから、年次有給休暇の取得も進むことになりそうですね。
賛多弁護士:その通りです。自分からは休むと言いづらい、まじめな日本人ならではの政策といえるかもしれませんね。なお、通常通り、労働者から有給休暇の申請があって、使用者が休暇を取得させた場合には、その取得させた日数だけ会社の義務が免除されることになります。つまり、「労働者からの申請と使用者からの指定のどちらの方法でもよいから、とにかく5日の有給休暇は取得させなければならない」ということですね。
田中社長:よくわかりました。最後に、③「同一労働同一賃金の実現」とはどういうことですか。
賛多弁護士:日本には、正規雇用労働者(いわゆる正社員)と、短時間・有期雇用労働者(いわゆる非正規社員)がいます。そして、正社員と非正規社員が仮に同じ仕事をしている場合であっても、両者の給料には差があるというのが一般的です。また、正社員には支給されている手当が非正規社員には支給されないということもよく起きています。しかし、日本では非正規社員の労働者全体に占める割合は増え続け、近年は賃金労働者の3~4割を占めるまでになりました。そのため、両者の待遇に差があることが徐々に社会問題として認識されるようになりました。非正規社員の増加が少子化につながっているという指摘もあります。
田中社長:なるほど。それで両者の間の不公平な待遇差を解消させるという方向で進んでいるのですね。
賛多弁護士:その通りです。今後は、正社員と非正規社員の待遇差について、単に「非正規だから」で済ませることはできず、なぜ、そのような待遇差を設ける必要があるのかを合理的に説明できる必要があります。そのため、例えば、正社員には支給している手当を非正規社員には支給していない場合には、その理由について検討し、合理的に説明がつかないような場合には、正社員の手当をカットする、あるいは、非正規社員にも同じ手当を支給するといった両者の待遇差を埋める対応が必要になります。
田中社長:よくわかりました。うちの会社でも、労働時間や有給休暇をきちんと管理できていなかったり、正社員と非正規社員の待遇差について突き詰めて考えたことがなかったので、社内で1つずつ検討を進めたいと思います。
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「働き方改革」には、上記で挙げた以外にも様々な政策が含まれますが、全体の方向性としては、「健康に」、「効率的に」、「公正に」、働くということを目指しているといえます。
なお、上記①および②の施行日は、2019年4月1日(①につき、中小企業は2020年4月1日)、③の施行日は2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)となっています。
「働き方改革」については、厚生労働省のホームページで多くのパンフレットやリーフレットが公開されていますので、ご一読することをお勧めいたします。
厚生労働省 働き方改革特設サイト(支援のご案内)
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田 重則