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37軒目 いい鮨は心でつくる

大久保一彦の“流行る”お店の仕組みづくり

いい鮨は心がつくる
 
 
小松弥助(金沢)
 
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 今年の店舗見学セミナーは金沢で開催しました。その中で参加者の記憶に残る店として評価いただいたのが小松弥助でした。
 
 「江戸前でも上方の寿司でもない。弥助の寿司だ」と評せられ、東京からいらっしゃるお客様は後を絶ちません。烏賊を三枚におろし、細く引く姿が印象的な森田弥助さん。
 
 貸切の店は最初、緊張が走っていました。しかし、森田さんが実にやさしい笑顔で「今日はどちらからいらっしゃった?」と話しかけると、場が和み、「いい 寿司は心が作る」という商売に関するとてもありがたいお話を伺うことができました。今回セミナーでお話いただいた内容を絡めてご紹介することにしましょ う。
 
 森田弥助さんは神戸で修行した後、東京の名店で修行をしたそうです。
そして、昭和32年暮れ、石川県小松市の米八からスカウトされました。当時、精進料理店だった米八はすしコーナーの新設に際して腕のいい江戸前寿司の職人を探しており、店主の親戚と面識があった森田さんに白羽の矢が立ったそうです。
 
 森田さんは「地方でのんびり一年過ごすのも悪くないな」という思いもあり、米八で寿司を握り始めました。銀座の一流店で技を磨いた森田さんの寿司はたち まち評判になり、地元の名士が集いました。贔屓客の多くの経済人は当時隆盛を極めていた繊維関連の経営者で、そんな旦那衆は、茶道や謡をたしなみ、食文化 や器にも深い知識を有しており、銀座で豪遊する社長たちとは一味も二味も異なった客層でした。
 
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 その粋人と交わる森田さんには「俺は凄いところへ来たな。一生どころか、もっと長くこの地へ留まり勉強させてもらおう」と心が芽生えたと言います。
 
 そして、昭和42年、森田さんは米八から独立して小松弥助を開業し、この地に根をおろされました。森田さんの寿司は多くの人を虜にして、全国に知れわたりました。
 
 その後、小松で魂をこめた寿司を握り続けるも、平成9年、贔屓客がお亡くなりになるのをきっかけに、転機がきました。森田さん自らも66歳を迎えており、寿司職人の人生に区切りをつけたくなったのです。
 
 そして、森田さんは引退後、伝統文化が凝縮された京都にひかれ移り住みました。
しかし、包丁をおいて二ヶ月がたとういうころ、「今までの人生は何だったのだろうか?これまで握った寿司は何だったのだろうか?」という思いがよぎるようになりました。それ以来森田さんは自問自答を繰り返す日々を繰り返したそうです。
 
 自問自答を通して、「今まで握っていた寿司は特別なお客様に向き合っていただけの仕事であった。一般のお客様にもっとおいしく味わってもらえる寿司を作らねばならない。これこそ本当の寿司といえるものを!」と森田さんはついに悟りを開いたのです!
 
 森田さんは胸の奥底からわき上がったこの思いに身震いしたと振り返ります。
そして、平成10年10月小松弥助が67歳になった森田さんによって、新たにスタートしました。 一年の自省のときを経て、森田さんは自らの思い通りに生 きてきたつもりだが、自分は世の中に生かされていることに気づいたそうです。大きく人生観が変わり、感謝に生きる寿司職人として、寿司を握るようになって いたました。自分を産んでくれた両親はもとより、食材の魚にも感謝するようになり、その思いをひとつひとつにこめるようになったそうです。
 
 弥助さんの寿司を食べて感動するのはこの思いに他ならなりません。
森田さんの一日は市場に足を運ぶことから始まります。市場に並ぶ、魚貝に「今日もあなたたちを美味しい寿司に仕上げることができるように、一生懸命がんばります。ありがとう!」と話しかけるそうです。
 
 森田さんはわれわれに握りながら、「寿司の味は握る人の心から出てくる」とおっしゃいました。「味わう人に喜んで欲しい」と強く思う森田さんの真心、そ して、食事をしながら、もっと喜んでもらうために日々研鑽する謙虚な森田さんの心を確実に感じます。79歳になった今も、評判の寿司屋があれば、飛んでゆ き、若者であったとしても学ぶと言います。
 
 「無事是貴人」という言葉は森田さんのためにあるのかもしれない。「明日はどんな寿司が作れるか」常に考え、常に前を見据えているのです。その気持ちが、感動を呼び、遠くからお客様をひきつけているのです。

 

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