「3年後が怖い」
最近、銀行の融資担当者からよく聞く言葉です。
新型コロナウィルス感染症への緊急経済対策として、コロナの影響で大幅に売上が減少した事業者を対象に実質無利子・無担保の融資が行われました。
原則として元金は3年据え置きなので、3年間は返済も利息の支払いもありません。
つまり、銀行員たちは融資の回収が始まる3年後になって、返済できない会社が多数発生することを今から恐れているのです。
一般的に、銀行員は3年以内に人事異動になりますから、3年後には担当する企業が替わっています。自分が担当した融資ではないのに、前任者の尻拭いをさせられるわけで、ハズレくじを引くと残債処理に時間を取られて悲惨なことになるそうです。
リーマンショックや東日本大震災の後にも同様のことがありました。
コロナ緊急対策融資で調達した資金は、あといくら残っていますか?
●コロナ緊急対策融資を上限いっぱいまで受けた会社は少なくない
会社が借り入れをする目的は、大きく分けて2つあります。
今回のコロナ緊急対策融資のような延命のための借り入れと、事業拡大のための借り入れです。
予期せぬコロナ禍で収入が減少した会社では資金繰りが苦しく、コロナ緊急対策融資がおりたらすぐに、支払いが遅れていた給料や家賃に充てられました。
コロナ緊急対策融資のおかげで倒産を免れた中小企業も少なくありません。
元金の据え置き期間の3年間は、会社を立て直すための猶予期間です。
一方で、今回のコロナ緊急対策融資では、資金繰りを回すために必要最小限の資金だけを借りたという企業だけではありません。
無利息で借りられるなら、この機会に上限いっぱいまで借りておいたという会社も少なくありません。
この後、事業を回復させるためには、必ず資金が必要になるからです。
御社では、余分にいくら調達しましたか?
●社長は資金があると使いたくなる
多くの社長たちは手元に資金があると、どうしても使いたくなってしまいます。
社長の頭の中は、いつも新規事業や新製品・新サービスなど、会社を成長拡大させるためのアイデアでいっぱいだからです。
会社に資金がないときには、じっとガマンしています。
しかし、資金が手元にあると、挑戦してみようという意欲が湧いてきます。
また、既存のビジネスがふるわないとなれば、新しいことをしてみようと思うでしょう。
「もっと儲かる事業を立ち上げよう」
「業態を変えてやり直してみよう」
「思い切ってデジタルトランスフォーメーションを進めよう」
こうして次の成長に向けて、挑戦したいことへの資金が投入されていきます。
御社では、借りた資金を何に投資しますか?
●新規投資はキャッシュフローの範囲を目安にする
倒産事例で多いのが、過剰投資による失敗です。
「一発逆転ホームラン」を夢見ないほうがいいでしょう。
特に、借金でギャンブルをするのは危険すぎます。
新規事業や新製品は「小さく産んで大きく育てる」のが鉄則です。
新規投資で失敗しないように、あらかじめ投資規模の基準を決めておきます。
たとえば大企業であれば、「設備投資の金額は年間の減価償却費の範囲内」に収まるようにしています。
しかし、設備の規模が小さい中小企業の場合、年間の減価償却費の金額は少額ですから、思ったような投資はできません。
そこで中小企業では、投資規模をキャッシュフローを目安にして考えます。
キャッシュフロー = 税引後利益 + 減価償却費
投資後に期待できるキャッシュフローを予測して、何年で回収できるのかを予測します。
今回のコロナ緊急対策融資を元手にする場合には、3年間のキャッシュフローを見積もって、3年後の資金の増減を試算しておくのです。
御社では、投資の限度額をどうやって決めていますか?
●3年後の最悪のケースも予測した「リカバリー資金」を残しておく
投資によるキャッシュフローを見積もる場合、どうしても希望的な予測をしがちです。
社長が「取らぬ狸の皮算用」をしている会社をよく見ます。
計画どおりに進むことはほとんどありません。
特に、今回突然訪れたコロナ禍の状況では、予測不能なことのほうが多いでしょう。
失敗したときのために、リカバリーできる程度に資金を残しておかなければなりません。
今回のコロナ緊急対策融資の返済が3年後から始まります。
新規投資をする前に、必ず経理に今後3カ年の資金計画を立てるように指示してください。
事業計画どおりにいった場合の資金計画だけではなく、最悪のケースを想定した資金計画も忘れずに作ります。
会社を倒産の危機に陥らせないように、まさかのときの3年後の会社の資金繰り状況を見ておくのです。
3年後の資金繰りを予測して、もう一度冷静になって投資の規模や時期を考え直すことにより、過剰な投資を抑制することができます。
御社は、3年間の資金計画を何パターン作っていますか?