市場・需要が縮小していく中で、人口減少を逆転するための着眼点を3つ教えてください。
人口減少の進行につれて、日本の社会・経済には様々な変化が発生してきます。その中でも、今後の生活市場にとって、とりわけ重大な影響をもたらす変化は次の3つでしょう。
第1は総人口の減少です。2056年頃に1億人を割り、世紀末にはほぼ5千万人にまで落ち込みます。
都道府県でも、すでに8割強の地域で人口減少が進んでいますが、2025年までに東京都を除く46道府県で減少し、2045年以降はすべてのエリアに波及します。
第2は年齢構成の上昇です。「少産化」による若年層の縮小と「長寿化」による高齢層の増加で、従来の定義によると、若年人口(0~14歳)は2020年の11.9%から2070年には9.2%へと低下し、逆に高齢人口(65歳以上)は2020年の28.6%から2070年には38.7%へ上昇していきます。
第3は家族構造の激変です。総人口減少と年齢構成上昇の影響を受けて、家族の数は2020年の5571万世帯から2050年には5261万世帯まで減っていきます。
1世帯当たりの規模は2020年の2.21人から減少を続け、2050年には1.92人へと縮小します。
3つの変化は、生活市場に対して、マイナスの影響を与えますが、一方ではプラスのインパクトをもたらす可能性があります。
総人口の減少によって、経済・社会の基本的な方向は、従来の成長・拡大型社会が作り出した様々な蓄積を、減っていく人間で巧みに利用する構造へと移行していきます。
生活面でも、成長・拡大を焦る生活心理が次第に縮小し、与えられた生活環境を巧みに活用して、自分なりの暮らしを実現する、「知足・自足型」の生活者が増えてきます。
そこで、生活市場においても、これまでの日常生活を超えた「超日常化」というべきトレンドが生まれてくるでしょう。
2つ目の「年齢構成の上昇」は、前述のように、年齢区分を次第に上昇させ、人生の仕切り方もまた大きく変えます。
今後は「人生85~90歳」を前提に、幼年、青年、中年、老年などの開始・終了時代をそれぞれ見直し、各時期をゆっくりと生きる「超年齢化」へと移行していくでしょう。
3つ目の「家族形態の変化」では、単身者、夫婦のみ、単親が増え、核家族や多世代家族が減っていきます。
さらに細かくみると、同棲、事実婚、別居婚も増えてきますし、単身者がマンションの一室や一軒の家で共同生活する「ルームシェア」や「ハウスシェア」、高齢者が一緒に住む「グループホーム」、複数の家族や元気な高齢単身者が共同で暮らす「コレクティブハウス」といった、非血縁的な同居世帯も拡大します。
従来の家族を超えた新家族、いわば「超家族化」ともいうべきトレンドの進行です。
マーケティングで重要なのは、こうした社会の微妙な変化や価値観の揺れをいち早く捉え、それらを商品化することです。
人口が増加から減少へ移行した現在の日本は、社会や政治・経済、文化・文明といったマクロな次元から、個々人の生き方やライフスタイルなどのミクロな次元に至るまで大きく変化していきます。
変化が起これば、そこに新たな需要が必ず生まれる。そういう意味で、国内にも獲りにいくべき新しいマーケットはいくらでも発見できるのです。