【4】自分でうまく不満の論理を説明しきれないお申し出者のジレンマを不満の先取りで緩和する
しばしば、
「このお客様は何を怒っているのだろう」
「なぜ、そんなことをそれほどまでに怒っているのだろう」
とお申し出者のおっしゃっている内容と、お怒り具合が相応でなくて、
対応担当者の感覚で言えば狐につままれたような思いに駆られることがあります。
そして、いろんな方向から問いかけていき、お怒りの本質や根拠をご自分で
やっと口にしてくださるということを経験することも多いと思いますが、
このときに、「な~んだ、それならそうと最初っから言ってくれればいいのに」と、言いたくなりませんか?
もしそれなら、あなたはまだまだクレーム対応を失敗する可能性が高いタイプ。
お申し出者は、不満や怒りを吐き出したくて企業に連絡をしてくるのですが、
本当に何に怒りを感じたのかを自覚できている人は、それほど多くはありません。
それならば、自分でも何にどんな怒りを感じているのか、どう対応されたら本当に満足するのかを
整理できていないのに興奮して連絡してこないで欲しいと、あなたが思うのも無理はありませんが、
実は“怒り”というものが冷静な思いを混乱させてしまうようですね。
逆に言えば、“怒り”をもっている人のお話は、すべてが本質ではないし、
すべてがすべてではないということが多いにあり得るということなのです。
私もそうとは知らず、お申し出者のお怒りと共に投げかけられる
不満や要望に実直に取り組もうとしたにもかかわらず、ちっとも
納得を得られない経験をずいぶんしました。
それは実は、本当の怒りの原因ではなかったとか、本当に望んでいた要望ではなかったということだったのです。
お申し出者が本当に何に不満を持ち、何に怒っているのか、
そして、どうして欲しいと思っているのかを、相手があなたに
わかるように率先して話してくれると思っていたら大きな間違い。
それらのことは、むしろ、対応担当者の私たちがさまざまな事情を引き出し、いろんな思考を積み上げ、
本質をまとめあげ、「あなたはなんだかんだと言ってもこのことが不満なのですね?」と言わんばかりに差し出し、
「そうそう、自分はそのことに不満を感じていたんだ。」と明確に自分の不満に気づかせることも対応担当者の役目なのです。
そのためには、お申し出者からなにがしかの言葉や、事情を投げかけられるたびに、
“その言葉に対してどうお答えしようか”ということを考えるのではなく、
“その言葉はどんな思いが言わせているのだろう”と考えることが必要です。
日ごろの業務の中でクレームの事例の引き出しをたくさん持っているあなたですから、
不思議なことに“その言葉はどんな思いがかくれているのだろう”と脳みそを活動させれば、
“ひょっとしたら・・・”なんて思いあたることがぼんやりと浮かんでくるものです。
私の経験ではこんなことがありました。
洋菓子の15個入り詰め合わせの商品が、14個しか入っていなかったというお客様からのクレームでした。
(1)「いったいどういうこと!?なんでそんなことが起こったのか説明しなさい。詰め合わせをした人を連れて謝らせなさい。」
などと厳しいお言葉の連発の中、なんとかラポールをかけれたことで、知人に差し上げたものであること、
その知人が気を使う関係の方だったことなどを聞き取り、やっと、私は
(2)「恐れ入りますがお客様、ということは今回の件で、お友達に対してなんと
ご説明をしたらいいのかということで、お気持ちを重くさせているのではございませんか?」
と、そのお客様が本当に心を痛めていることを見つけ出すことができ、
(3)「それでは、私どもから、先様へおわびとご説明をさせていただきたいのですが、
さしつかえございませんでしょうか。」
と対応策を提案し、納得いただいたことがあります。
よく見れば(1)の中の要望には、私は何一つお応えしていません。むしろ、(1)の要望に実直に応え、詰め合わせに
1個不足だった原因を工程を踏まえて順序だてて説明し、また、詰め合わせの作業を行った者を連れてお詫びに出向いたところで、
このお客様の怒りの本質、本当の要望に応えたことにはならず、私とお客様の二人で何日も何日も、
終わりのない交渉を続けることになったことは今でも想像できることです。
何度も言いますが、対応担当者の方が、お申し出者よりクレームに向き合った経験は多いのですから、
一人のお申し出者がすべての本音をまとめあげて吐き出してくれるまで待っているようでは、
どんくさい気の利かない担当者だと物足りなく思われてもしかたがありません。
間違っていてもかまわなから、
「ひょっとして、このようなことでお気持ちのご負担をおかけしているのではありませんか?」と
お申し出者の心のおもりを、少し下から持ち上げてあげるような不満の先取りをする意気込みが、
クレーム対応担当者には必要です。
さらに「それ!それ!そうなんだよ」と、相手がつい言ってくれたりするとたまんない達成感も味わえますよ。
お申し出者が、自分の不満や要望の本質を整理してくれるのを待っているような担当者ではなく、
お申し出者の手を引いて一緒に不満と要望の本質を探し求め、見つけ出してあげれる対応担当者になって下さいね。
中村友妃子
【出所・参考文献】
『クレーム対応のプロが教える“最善の話し方”』(青春出版社刊)